「アハーマイオニー・グレンジャー」とスカビオールが読み上げていた。「アハリー・ポッターと一緒に旅をしていることがわかっている、『穢けがれた血ち』」
沈黙ちんもくの中でハリーの傷痕が焼けるように痛んだが、ハリーは現実のその場にとどまるように、ヴォルデモートの心の中に滑り込まないようにと、極限きょくげんまで力を振りしぼって踏ふん張った。グレイバックがブーツを軋きしませて、ハーマイオニーの前に屈かがみ込む音が聞こえた。
「嬢じょうちゃんよ、驚くじゃないか。この写真は、なんともはや、あんたにそっくりだぜ」
「違うわ 私じゃない」
ハーマイオニーの怯おびえた金切かなきり声ごえは、告白こくはくしているも同じだった。
「……ハリー・ポッターと一緒に旅をしていることがわかっている」
グレイバックが低い声で繰り返した。
その場が静まり返った。傷痕が激しく痛んだが、ハリーはヴォルデモートの想念に引き込まれないよう、全力で抵抗ていこうし続けた。自分の心を保つのが、いまほど大切だったことはない。
「すると、話はすべて違ってくるな」グレイバックが囁ささやいた。
誰も口をきかなかった。ハリーは、「人さらい」の一味が、身動きもせずに自分を見つめているのを感じ取った。そして、ハーマイオニーの腕の震えが自分の腕に伝わってくるのを感じた。グレイバックが立ち上がって、一、二歩歩き、ハリーの前にまた屈み込んで、ふくれ上がったハリーの顔をじっと見つめた。
「額にあるこれは何だ、バーノン」
汚きたならしい指を引き伸ばされた傷痕に押しつけ、グレイバックが低い声で聞いた。腐臭ふしゅうのする息がハリーの鼻を突いた。
「触さわるな」
ハリーは我慢がまんできずに思わず叫んだ。痛みで吐はきそうだった。
「ポッター、メガネを掛かけていたはずだが」グレイバックが囁くように言った。
「メガネがあったぞ」
後ろのほうをこそこそ歩き回っていた、一味の一人が言った。
「テントの中にメガネがあった。グレイバック、ちょっと待ってくれ――」
数秒後、ハリーの顔にメガネが押しつけられた。「人さらい」の一味は、いまやハリーを取り囲み、覗のぞき込んでいた。
「間違いない」グレイバックがしゃがれ声で言った。「俺おれたちはポッターを捕まえたぞ」
一味は、自分たちのしたことに呆然ぼうぜんとして、全員が数歩退しりぞいた。二つに引き裂さかれる頭の中で、現実の世界にとどまろうと奮闘ふんとうし続けていたハリーは、何も言うべき言葉を思いつかなかった。バラバラな映像えいぞうが、心の表面に入り込んできた――。
……黒い要塞ようさいの高い壁かべの周りを、自分は滑すべるように動き回っていた――
違う。自分はハリーだ。縛しばり上げられ、杖つえもなく、深刻しんこくな危機に瀕ひんしている――。
……眼めを上げて見ている。いちばん上の窓まで行くのだ。いちばん高い塔とうだ――
自分はハリーだ。一味は低い声で自分の運命を話し合っている――。
……飛ぶときがきた――