……自分は窓の切れ目から蛇へびのごとく入り込み、霞かすみのように軽々と独房どくぼうらしい部屋の中に降おり立った――
捕虜たちは、どこか郊外こうがいの小道に着地し、よろめいてぶつかり合った。ハリーの両目はまだ腫はれていて、周囲に目が慣れるまで少し時間がかかったが、やがて長い馬車道のような道と、その入口に両開きの鉄の門が見えた。ハリーは少しほっとした。まだ最悪の事態は起こっていない。ヴォルデモートは、ここにはいない。頭に浮かぶ映像えいぞうと戦っていたハリーには、それがわかっていた。ヴォルデモートは、どこか見知らぬ要塞ようさいのような場所の、塔とうのてっぺんにいる。しかし、ハリーがここにいると知って、ヴォルデモートがやって来るまでに、果たしてどのくらい時間の猶予ゆうよがあるのか、それはまた別な問題だ……。
「人さらい」の一人が、大股おおまたで門に近づき揺ゆさぶった。
「どうやって入るんだ 鍵かぎがかかってる。グレイバック、俺おれは入れ――うぉっと」
その男は、仰天ぎょうてんしてパッと手を引っ込めた。鉄が歪ゆがんで抽象的な曲線や渦うず模も様ようが恐ろしい顔に変わり、ガンガン響ひびく声でしゃべり出したのだ。
「目的を述べよ」
「俺たちは、ポッターを連れてきた」グレイバックが勝ち誇ほこったように吠ほえた。「ハリー・ポッターを捕まえた」
門がパッと開いた。
「来い」グレイバックが一味に言った。捕虜ほりょたちは門から中へ、そして馬車道へと歩かされ、両側の高い生垣いけがきが一行の足音をくぐもらせた。頭上に幽霊ゆうれいのような白い姿が過よぎった。アルビノの白しろ孔く雀じゃくだった。ハリーはつまずいて、グレイバックに引きずり起こされた。ほかの四人の捕虜と背中合わせに縛しばられたまま、ハリーはよろめきながら横歩きしていた。腫はれぼったい目を閉じ、ハリーは、しばらく傷痕きずあとの痛みに屈服くっぷくすることにした。ヴォルデモートが何をしているのか、ハリーが捕まったことをもう知っているのかどうかを知りたかった――。
……やつれ果てた姿が薄うすい毛布の下で身動きし、こちらに寝返りを打った。そして骸骨がいこつのような顔の両目が見開かれた……弱りきった男は、落ち窪くぼんだ大きな目でこちらを、ヴォルデモートを見み据すえ、上半身を起こした。そして笑った。歯がほとんどなくなっている……。
「やって来たか。来るだろうと思っていた……そのうちにな。しかし、お前の旅は無意味だった。私がそれを持っていたことはない」
「嘘うそをつくな」