ヴォルデモートの怒りが、ハリーの中でドクドクと脈打った。ハリーの傷痕は、痛みで張り裂さけそうだった。ハリーは、心をもぎ取るようにして自分の体に戻し、捕虜の一人として砂利じゃり道みちを歩かされているという現実から心が離れないように戦った。
明かりがこぼれ、捕虜全員を照らし出した。
「何事ですか」冷たい女の声だ。
「我々は、『名前を言ってはいけないあの人』にお目にかかりに参りました」グレイバックのしゃがれ声が言った。
「おまえは誰」
「あなたは私をご存知ぞんじでしょう」
狼人間の声には憤いきどおりがこもっていた。
「フェンリール・グレイバックだ 我々はハリー・ポッターを捕とらえた」
グレイバックはハリーをぐいとつかんで半回りさせ、正面の明かりに顔を向けさせた。ほかの捕虜ほりょも一緒いっしょにズルズルと半回りさせられる羽は目めになった。
「この顔がむくんでいるのはわかっていやすがね、マダム、しかし、こいつはアハリーだ」スカビオールが口を挟はさんだ。「ちょいとよく見てくださりゃあ、こいつの傷痕きずあとが見えまさぁ。それに、ほれ、娘っこが見えますかい 『穢けがれた血ち』で、アハリーと一緒いっしょに旅しているやつでさぁ、マダム。こいつがアハリーなのはまちげえねえ。それに、こいつの杖つえも取り上げたんで。ほれ、マダム」
ナルシッサ・マルフォイがハリーの腫はれ上がった顔を確かめるように眺ながめた。スカビオールが、リンボクの杖をナルシッサに押しつけ、ナルシッサは眉まゆを吊つり上げた。
「その者たちを中に入れなさい」ナルシッサが言った。
ハリーたちは広い石の階段を追い立てられ、蹴けり上げられながら、肖しょう像ぞう画がの並ぶ玄関げんかんホールに入った。
「従ついてきなさい」
ナルシッサは、先に立ってホールを横切った。
「息子のドラコが、イースターの休暇きゅうかで家にいます。これがハリー・ポッターなら、息子にはわかるでしょう」
外の暗闇くらやみのあとでは、客間の明かりが眩まぶしかった。ほとんど目の開いていないハリーでさえ、その部屋の広さが理解できた。クリスタルのシャンデリアが一基いっき天井から下がり、この部屋にも、深ふか紫むらさき色いろの壁かべに何枚もの肖像画が掛かかっていた。「人さらい」たちが捕虜を部屋に押し込むと、見事な装飾そうしょくの大理石の暖炉だんろの前に置かれた椅い子すから、二つの姿が立ち上がった。
「何事だ」
いやというほど聞き覚えのあるルシウス・マルフォイの気取った声が、ハリーの耳に入ってきた。ハリーは急に恐ろしくなった。逃げ道がない。しかし恐れがつのることでヴォルデモートの想念そうねんを遮断しゃだんしやすくなったが、傷痕の焼けるような疼うずきだけは続いていた。