「この者たちは、ポッターを捕まえたと言っています」ナルシッサの冷たい声が言った。「ドラコ、ここへ来なさい」
ハリーはドラコを真正面から見る気になれず、顔を背そむけて横目で見た。肘ひじ掛かけ椅い子すから立ち上がったドラコは、ハリーより少し背が高く、プラチナブロンドの髪かみの下に顎あごのとがった青白い顔がぼやけて見えた。
グレイバックは、捕虜たちを再ふたたび回して、ハリーがシャンデリアの真下に来るようにした。
「さあ、坊ぼっちゃん」狼人間がかすれ声で言った。
ハリーは、暖炉の上にある、繊細せんさいな渦巻うずまき模様もようの見事な金縁きんぶちの鏡に顔を向けていた。細い線のような目で、ハリーは、グリモールド・プレイスを離れて以来、初めて鏡に映る自分の姿を見た。
ハーマイオニーの呪のろいで、顔はふくれ上がり、ピンク色にテカテカ光って、顔の特徴とくちょうがすべて歪ゆがめられていた。黒い髪かみは肩まで伸び、顎あごの周りにはうっすらとひげが生えている。そこに立っているのが自分だと知らなければ、自分のメガネを掛かけているのは誰かと訝いぶかったことだろう。ハリーは絶対にしゃべるまいと決心した。声を出せば、きっと正体がばれてしまう。それでもハリーは、近づいてくるドラコと目を合わせるのを避さけた。
「さあ、ドラコ」
ルシウス・マルフォイが聞いた。声が上ずっていた。
「そうなのか ハリー・ポッターか」
「わからない――自信がない」ドラコが言った。
ドラコはグレイバックから距離を取り、ハリーがドラコを見るのを恐れると同じくらい、ハリーを見るのが恐ろしい様子だった。
「しかし、よく見るんだ、さあ もっと近くに寄って」
ハリーは、こんなに興奮こうふんしたルシウス・マルフォイの声を、初めて聞いた。
「ドラコ、もし我々が闇やみの帝王ていおうにポッターを差し出したとなれば、何もかも許され――」
「いいや、マルフォイ様、こいつを実際に捕まえたのが誰かを、お忘れではないでしょうな」グレイバックが脅おどすように言った。
「もちろんだ。もちろんだとも」
ルシウスはもどかしげに言い、自分自身でハリーに近づいた。あまりに近寄ってきたので、ハリーの腫はれ上がった目でさえ、いつもの物憂ものうげな青白い顔が、はっきりと細かいところまで見えた。ふくれ上がった顔は仮面かめんのようで、ハリーは、まるで籠かごの籤ひごの間から外を覗のぞいているような感じがした。