「いったいこいつに何をしたのだ」ルシウスがグレイバックに聞いた。「どうしてこんな顔になったのだ」
「我々がやったのではない」
「むしろ『蜂刺はちさしの呪のろい』のように見えるが」ルシウスが言った。
灰色の目が、ハリーの額ひたいをなめるように見た。
「ここに何かある」ルシウスが小声で言った。「傷痕きずあとかもしれない。ずいぶん引き伸ばされている……ドラコ、ここに来てよく見るのだ どう思うか」
ハリーは、こんどは父親の顔のすぐ横に、ドラコの顔を近々と見た。瓜二うりふたつだった。しかし、興奮で我を忘れている父親に比べて、ドラコの表情はまるで気の進まない様子で、怯おびえているようにさえ見えた。
「わからないよ」ドラコはそう言うと、母親が立って見ている暖炉だんろのほうに歩き去った。
「確実なほうがいいわ、ルシウス」
ナルシッサが、いつもの冷たい、はっきりした声でルシウスに話しかけた。
「闇やみの帝王ていおうを呼び出す前に、これがポッターであることを完全に確かめたほうがいいわ……この者たちは、この杖つえがこの子のものだと言うけれど」
ナルシッサはリンボクの杖を念入りに眺ながめていた。
「でも、これはオリバンダーの話とは違います……もしも私たちが間違いを犯せば、もしも闇の帝王を呼び戻しても無む駄だ足あしだったら……ロウルとドロホフがどうなったか、覚えていらっしゃるでしょう」
「それじゃ、この『穢けがれた血ち』はどうだ」
グレイバックがうなるように言った。「人さらい」たちが再び捕虜ほりょたちをぐいと回し、ハーマイオニーに明かりが当たるようにした。その拍子に、ハリーは足をすくわれて倒れそうになった。
「お待ち」ナルシッサが鋭く言った。「そう――そうだわ。この娘は、ポッターと一緒いっしょにマダム・マルキンの店にいたわ この子の写真を『予よ言げん者しゃ』で見ましたわ ご覧、ドラコ、この娘はグレンジャーでしょう」
「僕……そうかもしれない……ええ」
「それなら、こいつはウィーズリーの息子だ」
ルシウスは、縛しばり上げられた捕虜たちの周りを大股おおまたで歩き、ロンの前に来て叫さけんだ。
「やつらだ。ポッターの仲間たちだ――ドラコ、こいつを見るんだ。アーサー・ウィーズリーの息子で、名前は何だったかな――」
「ああ」ドラコは、捕虜たちに背を向けたまま言った。「そうかもしれない」
ハリーの背後で客間のドアが開き、女性の声がした。その声がハリーの恐怖きょうふをさらに強めた。