「どういうことだ シシー、何が起こったのだ」
ベラトリックス・レストレンジが、捕虜の周りをゆっくりと回った。そしてハリーの右側で立ち止まり、厚ぼったい瞼まぶたの下からハーマイオニーをじっと見た。
「なんと」ベラトリックスが静かに言った。「これがあの『穢れた血』の これがグレンジャーか」
「そう、そうだ。それがグレンジャーだ」ルシウスが叫んだ。「そしてその横が、たぶんポッターだ ポッターと仲間が、ついに捕まった」
「ポッター」
ベラトリックスが甲高かんだかく叫んで後退あとずさりし、ハリーをよく見ようとした。
「たしかなのか さあ、それでは、闇の帝王に、すぐさまお報しらせしなくては」
ベラトリックスは左の袖そでをまくり上げた。ハリーはその腕に、闇の印が焼きつけられているのを見た。ベラトリックスが、愛するご主人様を呼び戻すため、いまにもそれに触ふれようとしている――。
「私が呼ぼうと思っていたのだ」
そう言うなり、ルシウスの手がベラトリックスの手首を握って、印に触ふれさせなかった。
「ベラ、私がお呼びする。ポッターは私の館に連れてこられたのだから、私の権限で――」
「おまえの権限」
ベラトリックスは、握られた手を振り離そうとしながら、冷笑した。
「杖つえを失ったとき、おまえは権限も失ったんだ、ルシウス よくもそんな口がきけたものだな その手を離せ」
「これはおまえには関係がない。おまえがこいつを捕まえたわけではない――」
「失礼ながら、マルフォイの旦那だんな」グレイバックが割り込んできた。「ポッターを捕まえたのは我々ですぞ。そして、我々こそ金貨を要求すべきで――」
「金貨」
義弟ぎていの手を振り払おうとしながら、もう一方の手でポケットの杖を探り、ベラトリックスが笑った。
「おまえは金貨を受け取るがいい、汚らしいハイエナめ。金貨など私がほしがると思うか 私が求めるのは名誉めいよのみ。あの方の――あの方の……」
ベラトリックスは抗あらがうのをやめ、暗い目でハリーには見えないところにある何かをじっと見つめた。ベラトリックスを言い負かしたと思ったルシウスは、有う頂ちょう天てんでベラトリックスの手を放ほうり出し、自分のローブの袖そでをまくり上げた――。
「待て」
ベラトリックスが甲高かんだかい声を上げた。
「触れるな。いま闇やみの帝てい王おうがいらっしゃれば、我々は全員死ぬ」
ルシウスは、腕の印の上に人差し指を浮かせたまま硬直こうちょくした。ベラトリックスがつかつかと、ハリーの視線の届く範囲はんいから出ていった。
「これは、何だ」ベラトリックスの声が聞こえた。
「剣だ」見えないところにいる男の一人が、ブツブツ言った。
「私によこすのだ」
「あんたのじゃねえよ、奥さん、俺おれんだ。俺が見つけたんだぜ」
バーンという音がして、赤い閃光せんこうが走った。ハリーには、その男が「失神しっしん呪じゅ文もん」で気絶させられたのだとわかった。仲間が怒ってわめき、スカビオールが杖を抜いた。