「この女あま、何のまねだ」
「ステューピファイ 麻ま痺ひせよ」ベラトリックスが叫さけんだ。「麻痺せよ」
一対四でも、「人さらい」ごときの敵かなう相手ではなかった。ハリーの知るベラトリックスは、並外なみはずれた技を持ち、良心を持たない魔女だ。「人さらい」たちは、全員その場に倒れた。グレイバックだけは、両腕を差し出した格好かっこうで、無理やりひざまずかせられた。ハリーは目の端はしで、手にグリフィンドールの剣つるぎをしっかり握った蒼白そうはくな顔のベラトリックスが、素早く狼人間に迫せまるのをとらえた。
「この剣をどこで手に入れた」
グレイバックの杖つえをやすやすともぎ取りながら、ベラトリックスが押し殺した声で聞いた。
「よくもこんなことを」
グレイバックがうなりを上げた。無理やりベラトリックスを見上げる姿勢を取らされ、口しか動かせない状態だった。グレイバックは鋭い牙きばをむき出した。
「術を解とけ、女あま」
「どこでこの剣つるぎを見つけた」
ベラトリックスは、剣をグレイバックの目の前で振り立てながら、繰り返して聞いた。
「これは、スネイプがグリンゴッツの私の金庫に送ったものだ」
「あいつらのテントにあった」グレイバックがかすれ声で言った。「解けと言ったら解け」
ベラトリックスが杖を振り、グレイバックは跳ねるように立ち上がった。しかし、用心してベラトリックスには近づかず、油断なく肘ひじ掛かけ椅い子すの後ろに回って、汚らしいねじれた爪つめで椅子の背をつかんだ。
「ドラコ、このクズどもを外に出すんだ」
ベラトリックスは、気絶している男たちを指して言った。
「そいつらを殺やってしまう度胸がないなら、私が片付けるから中庭に打っちゃっておきな」
「ドラコに対して、そんな口のききかたを――」
ナルシッサが激怒げきどしたが、ベラトリックスの甲高かんだかい声に押さえ込まれた。
「お黙だまり シシー、おまえなんかが想像する以上に、事は重大だ 深刻しんこくな問題が起きてしまったのだ」
ベラトリックスは、立ったまま少しあえぎながら、剣を見下ろしてその柄つかを調べた。それから黙だまりこくっている捕虜ほりょたちに目を向けた。
「もしも本当にポッターなら、傷きずつけてはいけない」
ベラトリックスは、誰に言うともなくつぶやいた。
「闇やみの帝王ていおうは、ご自身でポッターを始末することをお望みなのだ……しかし、このことをあのお方がお知りになったら……私はどうしても……どうしても確かめなければ……」