ベラトリックスは、再び妹を振り向いた。
「私がどうするか考える間、捕虜たちを地ち下か牢ろうにぶち込んでおくんだ」
「ベラ、ここは私の家です。そんなふうに命令することは――」
「言われたとおりにするんだ どんなに危険な状態なのか、おまえにはわかっていない」
ベラトリックスは金切かなきり声ごえを上げた。恐ろしい狂気の形相ぎょうそうだった。杖から一筋ひとすじの炎が噴ふき出し、絨毯じゅうたんに焼やけ焦こげ穴をあけた。
ナルシッサは一瞬いっしゅん、戸惑とまどったが、やがて狼人間に向かって言った。
「捕虜を地ち下か牢ろうに連れていきなさい、グレイバック」
「待て」ベラトリックスが鋭く言った。「一人だけ……『穢けがれた血ち』を残していけ」
グレイバックは、満足げに鼻を鳴らした。
「やめろ」ロンが叫さけんだ。「代わりに僕を残せ。僕を」
ベラトリックスがロンの顔を殴なぐった。その音が部屋中に響ひびいた。
「この子が尋じん問もん中ちゅうに死んだら、次はおまえにしてやろう」ベラトリックスが言った。「『血を裏切る者』は、『穢れた血』の次に気に入らないね。グレイバック、捕虜ほりょを地下へ連れていって、逃げられないようにするんだ。ただし、それ以上は何もするな――いまのところは――」
ベラトリックスはグレイバックの杖つえを投げ返し、ローブの下から銀の小刀こがたなを取り出した。ベラトリックスがハーマイオニーをほかの捕虜から切り離し、髪かみの毛をつかんで部屋の真ん中に引きずり出す間、グレイバックは、前に突き出した杖から抵抗ていこうし難い見えない力を発して、捕虜たちを別のドアまで無理やり歩かせ、暗い通路に押し込んだ。
「用ずみになったら、あの女は、俺おれに娘を味見させてくれると思うか」
捕虜に通路を歩かせながら、グレイバックが歌うように言った。
「一口か二口というところかな、どうだ、赤毛」
ハリーはロンの震えを感じた。捕虜たちは、急な階段を無理やり歩かされ、背中合わせに縛しばられたままなので、いまにも足を踏ふみ外はずして転落し、首を折ってしまいそうだった。階段下に、頑丈がんじょうな扉とびらがあった。グレイバックは杖で叩たたいて開錠かいじょうし、ジメジメした黴臭かびくさい部屋に全員を押し込んで、真っ暗闇くらやみの中に取り残した。地下牢の扉がバタンと閉まり、その響きがまだ消えないうちに、真上から恐ろしい悲鳴が長々と聞こえてきた。