「ほかには何を盗んだ 答えろ クルーシオ 苦しめ」
ハーマイオニーの悲鳴が、上の階から壁を伝って響ひびき渡った。ロンは壁を拳こぶしで叩たたきながら半分泣いていた。居いても立ってもいられず、ハリーは首に掛かけたハグリッドの巾着きんちゃくをつかみ、中をかき回した。ダンブルドアのスニッチを引っ張り出し、何を期待しているのかもわからずに振ってみた――何事も起こらない。二つに折れた不ふ死し鳥ちょうの尾お羽ば根ねの杖を振ってみたが、まったく反応がない――鏡の破片はへんがキラキラと床に落ちた。そして、ハリーは明るいブルーの輝かがやきを見た――。ダンブルドアの目が、鏡の中からハリーを見つめていた。
「助けて」ハリーは、鏡に向かって必死に叫さけんだ。「僕たちはマルフォイの館の地下牢にいます。助けて」
その目は瞬しばたたいて、消えた。
ハリーには、本当にそこに目があったかどうかの確信もなかった。破片をあちこちに傾けてみたが、映るものと言えば牢獄ろうごくの壁や天井ばかりだった。上から聞こえるハーマイオニーの叫び声が、ますますひどくなってきた。そしてハリーの横では、ロンが大声で叫んでいた。
「ハーマイオニー ハーマイオニー」
「どうやって私の金庫に入った」ベラトリックスの叫ぶ声が聞こえた。「地下牢に入っている薄汚うすぎたない小鬼こおにが手助けしたのか」
「小鬼には、今夜会ったばかりだわ」ハーマイオニーがすすり泣いた。「あなたの金庫になんか、入ったことはないわ……それは本物の剣つるぎじゃない ただの模も造ぞう品ひんよ、模造品なの」
「偽物にせもの」ベラトリックスが甲高かんだかい声を上げた。「ああ、うまい言い訳だ」
「いや、簡単にわかるぞ」ルシウスの声がした。「ドラコ、小鬼こおにを連れてこい。剣が本物かどうか、あいつならわかる」
ハリーは、グリップフックがうずくまっているところに飛んでいった。
「グリップフック」
ハリーは小鬼の尖とがった耳に囁ささやいた。
「あの剣が偽物だって言ってくれ。やつらに、あれが本物だと知られてはならないんだ。グリップフック、お願いだ――」
誰かが地ち下か牢ろうへの階段を急いで下りてくる音が聞こえ、次の瞬間しゅんかん、扉とびらの向こうでドラコの震える声がした。
「みんな下がれ。後ろの壁かべに並んで立つんだ。おかしなまねをするな。さもないと殺すぞ」
みな、命令に従った。鍵かぎが回ったとたん、ロンが「灯ひ消けしライター」をカチッと鳴らした。光はロンのポケットに吸い取られて、地下牢は暗闇くらやみに戻った。扉がパッと開き、杖つえを構えたドラコ・マルフォイが、青白い決然けつぜんとした顔でつかつかと入ってきた。ドラコは小さいグリップフックの腕をつかみ、小鬼を引きずりながら後退あとずさりした。扉が閉まると同時に、バチンという大きな音が、地下牢内に響ひびいた。