ロンが「灯消しライター」をもう一度カチッと鳴らした。光の玉が三つ、ポケットから空中に飛び出し、たったいまそこに「姿すがた現わし」した屋敷やしきしもべ妖精ようせいのドビーを照らし出した。
「ド――」
ハリーはロンの腕を叩たたいて、ロンの叫さけびを止めた。ロンは、うっかり叫びそうになったことにぞっとしているようだった。頭上の床を歩く足音がした。ドラコがグリップフックを、ベラトリックスのところまで歩かせていた。
ドビーは、テニスボールのような巨大な眼めを見開いて、足の先から耳の先まで震えていた。昔のご主人様の館に戻ったドビーは、明らかに恐怖きょうふですくみ上がっていた。
「ハリー・ポッター」蚊かの鳴くようなキーキー声が震えていた。「ドビーはお助けに参りました」
「でもどうやって――」
恐ろしい叫さけび声が、ハリーの言葉をかき消した。ハーマイオニーがまた拷問ごうもんを受けている。ハリーは大事な話だけにしぼることにした。
「君は、この地下牢から『姿くらまし』できるんだね」
ハリーが聞くと、ドビーは耳をパタパタさせてうなずいた。
「そして、ヒトを一緒いっしょに連れていくこともできるんだね」
ドビーはまたうなずいた。
「よーし、ドビー、ルーナとディーンとオリバンダーさんをつかんで、それで三人を――三人を――」
「ビルとフラーのところへ」ロンが言った。「ティンワース郊外の『貝殻かいがらの家いえ』へ」
しもべ妖精ようせいは、三度みたびうなずいた。
「それから、ここに戻ってきてくれ」ハリーが言った。「ドビー、できるかい」
「もちろんです、ハリー・ポッター」小さなしもべ妖精は小声で答えた。
ドビーは、ほとんど意識がないように見えるオリバンダーのところに、急いで近づいた。そして、杖作つえつくりの片方の手を握り、もう一方の手をルーナとディーンのほうに差し出した。二人とも動かなかった。
「ハリー、あたしたちもあんたを助けたいわ」ルーナが囁ささやいた。
「君をここに置いていくことはできないよ」ディーンが言った。
「二人とも、行ってくれ ビルとフラーのところで会おう」
ハリーがそう言ったとたん、傷痕きずあとがこれまでにないほど激はげしく痛んだ。その瞬間しゅんかんハリーは、誰かの姿を見下ろしていた。杖作りのオリバンダーではなく、同じくらい年老いて痩やせこけた男だ。しかも、嘲あざけるように笑っている。