「殺すがよい、ヴォルデモート。私は死を歓迎かんげいする しかし私の死が、お前の求めるものをもたらすわけではない……お前の理解していないことが、何と多いことか……」
ハリーはヴォルデモートの怒りを感じた。しかし、また響ひびいてきたハーマイオニーの叫さけび声が、ハリーを呼び戻した。ハリーは怒りを締しめ出して、地ち下か牢ろうに、そして自分自身の現実の恐きょう怖ふに戻ってきた。
「行ってくれ」ハリーはルーナとディーンに懇願こんがんした。「行くんだ 僕たちはあとで行く。とにかく行ってくれ」
二人は、しもべ妖精が伸ばしている指をつかんだ。再びバチンと大きな音がして、ドビー、ルーナ、ディーン、オリバンダーは消えた。
「あの音は何だ」
ルシウス・マルフォイの叫ぶ声が、頭上から聞こえてきた。
「聞こえたか 地下牢のあの物音は何だ」
ハリーとロンは顔を見合わせた。
「ドラコ――いや、ワームテールを呼べ やつに、行って調べさせるのだ」
頭上で、部屋を横切る足音がした。そして静かになった。ハリーは、地ち下か牢ろうからまだ物音が聞こえるかどうかと、客間のみんなが耳を澄すましているのだと思った。
「二人で、やつを組み伏せるしかないな」
ハリーがロンに囁ささやいた。ほかに手はない。誰かがこの部屋に入って、三人の囚人しゅうじんがいないのを見つけたが最後、こっちの負けだ。
「明かりを点つけたままにしておけ」ハリーがつけ加えた。
扉とびらの向こう側で、誰かが降おりてくる足音がした。二人は扉とびらの左右の壁かべに張りついた。
「下がれ」ワームテールの声がした。「扉から離はなれろ。いま入っていく」
扉がパッと開いた。ワームテールは、ほんの一瞬いっしゅん、地ち下か牢ろうの中を見つめた。三個のミニ太陽が宙に浮かび、その明かりに照らし出された地下牢は、一見いっけんして空からっぽだ。だが次の瞬間しゅんかん、ハリーとロンが、ワームテールに飛びかかった。ロンはワームテールの杖腕つえうでを押さえてねじり上げ、ハリーはワームテールの口をふさいで、声を封ふうじた。三人は無言で取っ組み合った。ワームテールの杖つえから火花が飛び、銀の手がハリーの喉のどを絞しめた。
「ワームテール、どうかしたか」
上からルシウス・マルフォイが呼びかけた。
「何でもありません」ロンが、ワームテールのゼイゼイ声をなんとかまねて答えた。「異常ありません」
ハリーは、ほとんど息ができなかった。
「僕を殺すつもりか」
ハリーは息を詰まらせながら、金属の指を引き剥はがそうとした。
「僕はおまえの命を救ったのに ピーター・ペティグリュー、君は僕に借りがある」
銀の指が緩ゆるんだ。予想外だった。ハリーは驚きながら、ワームテールの口を手でふさいだまま、銀の手を喉のど元もとから振りほどいた。ネズミ顔の、色の薄うすい小さな目が、恐怖きょうふと驚きで見開かれていた。わずかに衝しょう動どう的てきな憐あわれみを感じたことを自分の手が告白こくはくしてしまったことに、ワームテールもハリーと同じくらい衝撃しょうげきを受けているようだった。ワームテールは弱みを見せた一いっ瞬しゅんを埋め合わせるかのように、ますます力を奮ふるって争った。