「さあ、それはいただこう」
ロンが小声でそう言いながら、ワームテールの左手から杖を奪うばった。
杖も持たずたった一人で、ペティグリューの瞳孔どうこうは恐怖で広がっていた。その視線が、ハリーの顔から何か別なものへと移った。ペティグリューの銀の指が、情け容赦ようしゃなく持ち主の喉元へと動いていた。
「そんな――」
ハリーは何も考えずに、とっさに銀の手を引き戻そうとした。しかし止められない。ヴォルデモートがいちばん臆病おくびょうな召使めしつかいに与えた銀の道具は、武ぶ装そう解除かいじょされて役立たずになった持ち主に矛先ほこさきを向けたのだ。ペティグリューは、一瞬いっしゅんの躊躇ちゅうちょ、一瞬の憐憫れんびんの報むくいを受けた。二人の目の前で、ペティグリューは絞しめ殺されていった。
「やめろ」
ロンもワームテールを放はなし、ハリーと二人で、ワームテールの喉のどをぐいぐい締しめつけている金属の指を引っ張ろうとした。しかしむだだった。ペティグリューの顔から血の気が引いていった。
「レラシオ 放せ」
ロンが銀の手に杖つえを向けて唱となえたが、何事も起こらなかった。ワームテールはがっくりと膝ひざをついた。そのとき、ハーマイオニーの恐ろしい悲鳴ひめいが頭上から聞こえてきた。ワームテールは、顔がどす黒くなり目がひっくり返って、最後に一度痙攣けいれんしたきり動かなくなった。
ハリーとロンは、顔を見合わせた。そして、床に転がったワームテールの死体を残して階段を駆かけ上がり、客間に続く薄暗うすぐらい通路に戻った。二人は半開きになっている客間のドアに慎しん重ちょうに忍び寄った。ベラトリックスが、グリップフックを見下ろしているのがよく見えた。グリップフックは、グリフィンドールの剣つるぎを指の長い両手で持ち上げている。ハーマイオニーは、ベラトリックスの足元に身動きもせずに倒れていた。
「どうだ」ベラトリックスがグリップフックに聞いた。「本物の剣つるぎか」
ハリーは息を殺し、傷痕きずあとの痛みと戦いながら待った。
「いいえ」グリップフックが言った。「偽物にせものです」
「確かか」ベラトリックスがあえいだ。「本当に、確かか」
「確かです」小鬼こおにが答えた。
ベラトリックスの顔に安堵あんどの色が浮かび、緊張きんちょうが解とけていった。
「よし」
ベラトリックスは軽く杖を振って、小鬼の顔にもう一つ深い切り傷を負わせた。悲鳴を上げて足元に倒れた小鬼を、ベラトリックスは脇わきに蹴けり飛ばした。
「それでは」ベラトリックスが、勝ち誇ほこった声で言った。「闇やみの帝王ていおうを呼ぶのだ」
ベラトリックスは袖そでをまくり上げて、闇の印に人差し指で触ふれた。