とたんにハリーの傷痕に、またしてもぱっくり口を開いたかと思われるほどの激げき痛つうが走った。現実が消え去り、ハリーはヴォルデモートになっていた。
目の前の骸骨がいこつのような魔法使いが、歯のない口をこちらに向けて笑っている。呼び出しを感じてヴォルデモートは激怒げきどした――警告けいこくしておいたはずだ。ポッター以外のことでは俺様おれさまを呼び出すなと、あいつらに言ったはずだ。もしあいつらが間違っていたなら……。
「さあ、殺せ」老人が迫せまった。「お前は勝たない。お前は勝てない あの杖は金こん輪りん際ざい、お前のものにはならない――」
そして、ヴォルデモートの怒りが爆発ばくはつした。牢獄ろうごくを緑の閃光せんこうが満たし、弱りきった老体は硬かたいベッドから浮き上がって、魂たましいの抜け殻がらが床に落ちた。ヴォルデモートは窓辺に戻った。激はげしい怒りは抑えようもない……自分を呼び戻す理由がなかったら、あいつらに俺おれ様さまの報むくいを受けさせてやる……。
「それでは――」ベラトリックスの声が言った。「この『穢けがれた血ち』を処分しょぶんしてもいいだろう。グレイバック、ほしいなら娘を連れていけ」
「やめろおおおおおおおおおおおお」
ロンが客間に飛び込んだ。驚いたベラトリックスは、振り向いて杖つえをロンに向け直した――。
「エクスペリアームス 武ぶ器きよ去れ」
ロンがワームテールの杖をベラトリックスに向けて叫さけんだ。ベラトリックスの杖が宙を飛び、ロンに続いて部屋に駆かけ込んだハリーがそれを捕らえた。ルシウス、ナルシッサ、ドラコ、グレイバックが振り向いた。
「ステューピファイ 麻ま痺ひせよ」ハリーが叫んだ。
ルシウス・マルフォイが、暖炉だんろの前に倒れた。ドラコ、ナルシッサ、グレイバックの杖から閃光せんこうが飛んだが、ハリーはぱっと床に伏せ、ソファの後ろに転がって閃光を避よけた。
「やめろ。さもないとこの娘の命はないぞ」
ハリーはあえぎながらソファの端はしから覗のぞき見た。ベラトリックスが、意識を失っているハーマイオニーを抱え、銀の小刀こがたなをその喉元のどもとに突きつけていた。
「杖を捨てろ」ベラトリックスが押し殺した声で言った。「捨てるんだ。さもないと、『穢れた血』が、どんなものかを見ることになるぞ」
ロンは、ワームテールの杖を握りしめたまま固まっていた。ハリーは、ベラトリックスの杖を持ったまま立ち上がった。
「捨てろと言ったはずだ」
ベラトリックスはハーマイオニーの喉元に小刀を押しつけて、甲高かんだかく叫んだ。ハリーはそこに血がにじむのを見た。