「わかった」
ハリーはそう叫んで、ベラトリックスの杖を足元の床に落とした。ロンも同じく、ワームテールの杖を、床に落とした。二人は両手を肩の高さに挙げた。
「いい子だ」
ベラトリックスがにやりと笑った。
「ドラコ、杖を拾うんだ 闇やみの帝王ていおうが御お出いでになる。ハリー・ポッター、おまえの死が迫せまっているぞ」
ハリーにもそれがわかっていた。傷痕きずあとは痛みで破裂はれつしそうだ。ヴォルデモートが暗い荒れた海の上を、遠くから飛んでくるのを感じた。まもなく、ここに「姿すがた現わし」できる距離まで近づくだろう。ハリーは逃れる道はないと思った。
「さぁて」
ドラコが杖つえを集めて急いで戻る間、ベラトリックスが静かに言った。
「シシー、この英雄気取りさんたちを、我々の手でもう一度縛しばらないといけないようだ。グレイバックが、ミス『穢けがれた血ち』の面倒を見ているうちにね。グレイバックよ、闇やみの帝てい王おうは、今夜のおまえの働きに対して、その娘をお与えになるのを渋りはなさらないだろう」
その言葉が終わらないうちに、奇妙きみょうなガリガリという音が上から聞こえてきた。全員が見上げると、クリスタルのシャンデリアが小刻こきざみに震えていた。そして、軋きしむ音やチリンチリンという不吉な音とともに、シャンデリアが落ちはじめた。その真下にいたベラトリックスは、ハーマイオニーを放ほうり出し、悲鳴を上げて飛び退のいた。シャンデリアは床に激突げきとつし、大破たいはしたクリスタルや鎖くさりがハーマイオニーと小鬼こおにの上に落ちた。小鬼はそれでも、しっかりとグリフィンドールの剣つるぎを握ったままだった。キラキラ光るクリスタルのかけらが、あたり一面に飛び散った。ドラコは血だらけの顔を両手で覆おおい、体をくの字に曲げた。
ロンがハーマイオニーに駆かけ寄り、瓦礫がれきの下から引っ張り出そうとした。ハリーは、チャンスを逃さなかった。肘ひじ掛かけ椅い子すを飛び越え、ドラコが握っていた三本の杖をもぎ取り、三本ともグレイバックに向けて叫さけんだ。
「ステューピファイ 麻ま痺ひせよ」
三倍もの呪文じゅもんを浴びた狼人間は、撥はね飛ばされて天井まで吹っ飛び、床に叩たたきつけられた。
ナルシッサが、ドラコを傷きずつかないようにかばって引き寄せる一方、勢いよく立ち上がったベラトリックスは、髪かみを振り乱し、銀の小刀こがたなを振り回した。しかしナルシッサは、杖をドアに向けていた。
「ドビー」
ナルシッサの叫び声に、ベラトリックスでさえ凍こおりついた。
「おまえ おまえがシャンデリアを落としたのか――」
小さなしもべ妖精ようせいは、震える指で昔の女主人を指差しながら、小走りで部屋の中に入ってきた。
「あなたは、ハリー・ポッターを傷きずつけてはならない」ドビーはキーキー声を上げた。
「殺してしまえ、シシー」
ベラトリックスが金切かなきり声ごえを上げたが、またしてもバチンと大きな音がして、ナルシッサの杖もまた宙を飛び、部屋の反対側に落ちた。