傷痕が痛んだが、ハリーは痛みを制した。痛みを感じはしても、それは自分とはかけ離れたものだった。ついにハリーは、心を制御せいぎょし、ヴォルデモートに対して心を閉じる方法を身につけた。ダンブルドアが、スネイプからハリーに学び取らせたいと願った、まさにその技だ。シリウスの死の悲しみに胸ふさがれ、ほかのことが考えられなかったハリーの心をヴォルデモートが乗っ取ることができなかったと同様、こうしてドビーを悼いたんでいる心にも、ヴォルデモートの想念そうねんは侵入しんにゅうすることができなかった。深い悲しみが、ヴォルデモートを締しめ出したようだ……もっとも、ダンブルドアならもちろん、それを愛だと言ったことだろう……。
汗に悲しみを包み込み、傷痕きずあとの痛みを撥はねのけて、ハリーは固く冷たい土を掘り続けた。暗くら闇やみの中で、自分の息と砕くだける波の音だけを感じながら、ハリーはマルフォイの館で起こったことを考え、耳にしたことを思い出していた。すると、闇に花が開くように、徐々にいろいろなことがわかってきた……。
穴を掘る腕の、規則的なリズムが頭の中にも刻きざまれた。秘宝ひほう……分ぶん霊れい箱ばこ……秘宝……分霊箱……しかし、もうあのおかしな執念しゅうねんに身を焦こがすことはなかった。喪そう失しつ感かんと恐れが、妄執もうしゅうを吹き消していた。横面よこっつらを張られて目が覚めたような気がした。
ハリーは深く、さらに深く墓穴はかあなを掘った。ハリーにはもうわかっていた。ヴォルデモートが今夜どこに行っていたのか、ヌルメンガードのいちばん高い独房どくぼうで、誰を、なぜ殺したのかも……。
そしてハリーは、ワームテールのことを想おもった。たった一度の、些細ささいな、無意識で衝しょう動どう的てきな慈じ悲ひの心のせいで死んだのだ……ダンブルドアはそれを予測していた……ダンブルドアという人は、そのほか、どれほど多くのことを知っていたのだろう
ハリーは時を忘れていた。ロンとディーンが戻ってきたときにも、闇がほんの少し白んでいることに気づいただけだった。
「ハーマイオニーはどう」
「だいぶよくなった」ロンが言った。「フラーが世話してくれてる」
二人がもし、杖つえを使って完璧な墓を掘らないのはなぜかと聞いたら、ハリーはその答えを用意していた。しかし答える必要はなかった。二人はスコップを手に、ハリーの掘った穴に飛び降おりて、十分な深さになるまで黙だまって一緒いっしょに掘った。
ハリーは、妖精ようせいが心地よくなるように、上着で、すっぽりと包み直した。ロンは墓穴の縁ふちに腰掛こしかけて靴くつを脱ぎ、ソックスを妖精の素足に履はかせた。ディーンは毛糸の帽子ぼうしを取り出し、ハリーがそれをドビーの頭に丁寧ていねいに被かぶせて、こうもりのような耳を覆おおった。
「目を閉じさせたほうが、いいもン」