ほかの人たちが闇の中を近づいてくる音に、ハリーはそのときまで気づかなかった。ビルは旅行用のマントを着て、フラーは大きな白いエプロンを掛かけていた。そのポケットから、ハリーには「骨生ほねはえ薬ぐすり」だと見分けがつく瓶びんが覗のぞいていた。借り物の部屋着を着たハーマイオニーは、青ざめた顔をして足元がまだふらついていた。そばに来たハーマイオニーに、ロンは片腕を回した。フラーのコートに包まったルーナが、屈かがんでそっと妖精の瞼まぶたに指を触ふれ、見開いたままのガラス玉のような眼めをつむらせた。
「ほーら」ルーナが優しく言った。「ドビーは眠っているみたい」
ハリーは妖精を墓穴に横たえ、小さな手足を眠っているかのように整えた。そして穴から出て、最後にもう一度小さな亡なき骸がらを見つめた。ダンブルドアの葬儀そうぎを思い出し、ハリーは泣くまいと堪こらえた。何列も続く金色の椅い子す、前列には魔法大臣、ダンブルドアの功績こうせきを讃たたえる弔辞ちょうじ、堂々とした白い大だい理り石せきの墓。ハリーは、ドビーもそれと同じ壮大な葬儀そうぎに値すると思った。しかし妖精ようせいは、粗あらっぽく掘った穴で、茂みの間に横たわっている。
「あたし、何か言うべきだと思う」突然、ルーナが言った。「あたしから始めてもいい」
そして、みんなが見守る中、ルーナは墓穴はかあなの底の妖精の亡骸なきがらに語りかけた。
「あたしを地ち下か牢ろうから救い出してくれて、ドビー、本当にありがとう。そんなにいい人で勇ゆう敢かんなあなたが死んでしまうなんて、とっても不公平だわ。あなたがあたしたちにしてくれたことを、あたし、決して忘れないもン。あなたがいま、幸せだといいな」
ルーナは、促うながすようにロンを振り返った。ロンは咳払せきばらいをして、くぐもった声で言った。
「うん……ドビー、ありがとう」
「ありがとう」ディーンがつぶやいた。
ハリーはゴクリと唾つばを飲んだ。
「さようなら、ドビー」
ハリーが言った。やっと、それだけしか言えなかった。しかし、ルーナがハリーの言いたいことを全部言ってくれていた。ビルが杖つえを上げると、墓穴の横の土が宙に浮き上がり、きれいに穴に落ちてきて、小さな赤みがかった塚つかができた。
「僕もう少しここにいるけど、いいかな」ハリーがみんなに聞いた。
口々に返事をするつぶやき声が聞こえたが、言葉は聞き取れなかった。誰かが背中を優しく叩たたくのを感じた。そしてハリーを一人、妖精のそばに残して、みんなは家に向かってぞろぞろと戻っていった。