ハリーはあたりを見回した。海が丸くした大きな白い石が、いくつも花壇かだんを縁取ふちどっていた。ハリーはいちばん大きそうな石を一つ取り、ドビーの眠っている塚の頭のあたりに、枕のように置いた。それから、杖を取り出そうとポケットを探った。
杖は二本あった。何がどうだったのか記憶が途切れ、いまとなっては、誰の杖だったか思い出すことができなかった。ただ、誰かの手からか、杖をもぎ取ったことは覚えていた。ハリーは短いほうの杖を選んだ。それのほうが手になじむような気がしたからだ。そして杖を石に向けた。
ハリーのつぶやく呪文じゅもんに従って、ゆっくりと、石の表面に何かが深く刻きざまれた。ハーマイオニーならもっときれいに、しかも、おそらくもっと早くできただろう。しかし、墓を自分で掘りたかったように、その場所を自分で記しるしておきたかった。ハリーが再び立ち上がったとき、石にはこう刻まれていた。
自由なしもべ妖精 ドビー ここに眠る
ハリーは、しばらく自分の手作りの墓を見下ろしたあと、その場を離れた。傷痕きずあとはまだ少し疼うずいていたが、頭の中は、墓はか穴あなの中で浮かんだ考えで一杯だった。闇やみの中ではっきりしてきた考えは、心を奪うばうものでもあり、恐ろしくもあった。
ハリーが小さな玄関げんかんホールに入ったとき、みんなは居間にいた。話をしているビルに、みんなが注目していた。柔らかい色調のかわいい居間で、暖炉だんろには、流木りゅうぼくを薪まきにした小さな炎が明るく燃えていた。ハリーは、絨毯じゅうたんに泥どろを落としたくなかったので、入口に立って聞いた。
「……ジニーが休きゅう暇か中ちゅうで幸いだった。ホグワーツにいたら、我々が連絡する前にジニーは捕まっていたかもしれない。ジニーもいまは安全だ」
ビルは振り返って、ハリーがそこに立っているのに気づいた。
「僕は、みんなを『隠かくれ穴あな』から連れ出しているんだ」ビルが説明した。
「ミュリエルのところに移した。死し喰くい人びとはもう、ロンが君と一緒いっしょだということを知っているから、必ずその家族を狙ねらう――謝あやまらないでくれよ」
ハリーの表情を読んだビルが、一言つけ加えた。
「どのみち、時間の問題だったんだ。父さんが、何か月も前からそう言っていた。僕たち家族は、最大の『血を裏切る者』なんだから」
「どうやってみんなを守っているの」ハリーが聞いた。
「『忠誠ちゅうせいの呪文じゅもん』だ。父さんが『秘密ひみつの守人もりびと』。この家にも同じことをした。僕が『秘密の守人』なんだ。誰も仕事に行くことはできないけれど、いまは、そんなことは枝し葉よう末まっ節せつだ。オリバンダーとグリップフックがある程度回かい復ふくしたら、二人ともミュリエルのところに移そう。ここじゃあまり場所がないけれど、ミュリエルのところは十分だ。グリップフックの脚あしは治りつつある。フラーが『骨生ほねはえ薬ぐすり』を飲ませたから。たぶん、二人を移動させられるのは、一時間後ぐらいで――」
「だめ」
ハリーの言葉に、ビルは驚いたような顔をした。
「あの二人にはここにいてほしい。話をする必要があるんだ。大切なことで」
「どうやってみんなを守っているの」ハリーが聞いた。
「『忠誠ちゅうせいの呪文じゅもん』だ。父さんが『秘密ひみつの守人もりびと』。この家にも同じことをした。僕が『秘密の守人』なんだ。誰も仕事に行くことはできないけれど、いまは、そんなことは枝し葉よう末まっ節せつだ。オリバンダーとグリップフックがある程度回かい復ふくしたら、二人ともミュリエルのところに移そう。ここじゃあまり場所がないけれど、ミュリエルのところは十分だ。グリップフックの脚あしは治りつつある。フラーが『骨生ほねはえ薬ぐすり』を飲ませたから。たぶん、二人を移動させられるのは、一時間後ぐらいで――」
「だめ」
ハリーの言葉に、ビルは驚いたような顔をした。
「あの二人にはここにいてほしい。話をする必要があるんだ。大切なことで」