ハリーは自分の声に力があり、確信に満ちた目的意識がこもっているのを感じた。ドビーの墓を掘っているときに意識した目的だ。みんながいっせいに、どうしたのだろう、という顔をハリーに向けた。
「手を洗ってくるよ」
まだ泥どろとドビーの血がついている両手を見ながら、ハリーがビルに言った。
「そのあとすぐに、僕は二人に会う必要がある」
ハリーは小さなキッチンまで歩いていき、海を見下ろす窓の下にある流しに向かった。暗い庭で浮かんだ考えの糸を再びたどりながら手を洗っていると、水平線から明け初そめる空が、桜さくら貝がい色いろと淡い金色に染まった……。
ドビーはもう、誰に言われて地ち下か牢ろうに来たのかを話してくれることはない。しかしハリーは、自分の見たものが何かわかっていた。鏡の破片はへんから、心を見通すような青い目が覗のぞいていた。そして救いがやってきた。
「ホグワーツでは、助けを求める者には、必ずそれが与えられる」
ハリーは手を拭ふいた。窓から見える美しい景色にも、居間から聞こえる低い話し声にも、ハリーは心を動かされることがなかった。海の彼方かなたを眺ながめながら、夜明けのこの瞬間しゅんかん、ハリーはいままでになく強く、自分がすべての核心かくしんに迫せまっていると感じた。
しかし、額ひたいの傷痕きずあとはまだ疼うずいていた。ハリーには、ヴォルデモートもその核心に近づいていることがわかっていた。しかし、頭ではわかっていたが、納得していたわけではなかった。本能と頭脳が、別々のことをハリーに促うながしていた。頭の中のダンブルドアが、祈りのときのように組み合わせた指の上からハリーを観察しながら、微笑ほほえんでいた。
あなたはロンに「灯ひ消けしライター」を与えた。あなたはロンを理解していた……あなたがロンに、戻るための手段を与えたのだ……。
そしてあなたはワームテールをも理解していた……わずかに、どこかに後悔の念があることを……。
もしあなたが彼らを理解していたとすれば……ダンブルドア、僕のことは、何を理解していたのですか
僕は知るべきだった。でも、求めるべきではなかったのですね 僕にとって、それがどんなに辛つらいことか、あなたにはわかっていたのですね
だからあなたは、何もかも、これほどまでに難しくしたのですね 自分で悟さとる時間をかけさせるために、そうなさったのですね
ハリーは、水平線に昇りはじめた眩まぶしい太陽の金色に輝く縁ふちを、ぼんやりと見つめながらじっとたたずんでいた。それからきれいになった両手を見下ろし、その手にタオルが握られているのにふと気づいて驚いた。タオルをそこに置き、ハリーは居間に戻った。そのとき、傷痕が怒りに疼くのを感じた。そして、ほんの一瞬いっしゅん、水面に映るトンボの影のようにハリーがよく知っているあの建物の輪郭りんかくが心を過よぎった。