「ここで」ビルは自分たちの寝室のドアを開いた。
そこからも海が見えた。昇る朝日が、海を点々と金色に染めている。ハリーは窓に近寄り、壮大な風景に背を向けて、傷痕の疼うずきを意識しながら腕組みをして待った。ハーマイオニーは化粧けしょうテーブル脇わきの椅い子すに腰掛こしかけ、ロンは椅子の肘掛ひじかけに腰を下ろした。
ビルが、小さな小鬼こおにを抱えて再び現れ、そっとベッドに下ろした。グリップフックはうめき声で礼を言い、ビルはドアを閉めて立ち去った。
「ベッドから動かして、すまなかったね」ハリーが言った。「脚あしの具合はどう」
「痛い」小鬼が答えた。「でも治りつつある」
グリップフックは、まだグリフィンドールの剣つるぎを抱えたままだった。そして、半なかば反はん抗こう的てきで、半ば好こう奇き心しんに駆かられた不ふ可か思し議ぎな表情をしていた。ハリーは小鬼こおにの土つち気け色いろの肌はだや、長くて細い指、黒い瞳ひとみに目を止めた。フラーが靴くつを脱がせていたので、小鬼の大きな足が汚れているのが見えた。屋敷やしきしもべ妖精ようせいより体は大きかったが、それほどの差はない。半球状の頭は、人間の頭より大きい。
「君はたぶん覚えていないだろうけど――」ハリーが切り出した。
「――あなたがグリンゴッツを初めて訪れたときに、金庫にご案内した小鬼が私だということをですか」グリップフックが言った。「覚えていますよ、ハリー・ポッター。小鬼ゴブリンの間でも、あなたは有名です」
ハリーと小鬼は、見つめ合って互いの腹の中を探った。ハリーの傷痕きずあとはまだ疼うずいていた。ハリーは、グリップフックとの話し合いを早く終えてしまいたかったが、同時に、誤あやまった動きをしてしまうことを恐れた。自分の要求をどう伝えるのが最善かを決めかねていると、小鬼が先に口を開いた。
「あなたは妖精を埋葬まいそうした」小鬼は、意外にも恨うらみがましい口調だった。「隣となりの寝室の窓から、あなたを見ていました」
「そうだよ」ハリーが言った。
グリップフックは吊つり上がった暗い目で、ハリーを盗み見た。
「あなたは変わった魔法使いです、ハリー・ポッター」
「どこが」
ハリーは、無意識に額ひたいの傷を擦こすりながら聞いた。
「墓を掘りました」
「それで」
グリップフックは答えなかった。ハリーは、マグルのような行動を取ったことを軽蔑けいべつされているような気がしたが、グリップフックがドビーの墓を受け入れようが受け入れまいが、ハリーにとってはあまり重要なことではなかった。攻撃こうげきに出るために、ハリーは意識を集中させた。