「それは、ハリー・ポッター、あなたです。小鬼ゴブリンやしもべ妖精ようせいは、今夜あなたが示してくれたような保ほ護ごや尊敬には慣れていません。杖つえを持つ者がそんなことをするなんて」
「杖を持つ者」
ハリーが繰り返した。傷痕きずあとが刺すように痛み、ヴォルデモートが意識を北に向けているこのときに、そしてハリーが隣となりの部屋のオリバンダーに問とい質ただしたいことのあるこのときに、その言葉はハリーの耳に奇妙きみょうに響ひびいた。
「杖を持つ権利は」小鬼こおには静かに言った。「魔法使いと小鬼ゴブリンの間で、長い間論争されてきました」
「でも、小鬼は杖なしで魔法が使える」ロンが言った。
「それは関係のないことです 魔法使いは、杖の術の秘密をほかの魔法生物と共有することを拒こばみました。我々の力が拡大する可能性を否定したのです」
「だって、小鬼も、自分たちの魔法を共有しないじゃないか」ロンが言った。「剣つるぎや甲冑かっちゅうを君たちがどんなふうにして作るかを、僕たちには教えてくれないぜ。金きん属ぞく加か工こうについては、小鬼は魔法使いが知らないやり方を――」
「そんなことはどうでもいいんだ」
グリップフックの顔に血が上ってきたのに気づいて、ハリーが言った。
「魔法使いと小鬼の対立じゃないし、そのほかの魔法生物との対立でもないんだ――」
グリップフックは、意地悪な笑い声を上げた。
「ところがそうなのですよ。まったくその対立なのです 闇やみの帝王ていおうがいよいよ力を得るにつれてあなたたち魔法使いは、ますますしっかりと我々の上位に立っている グリンゴッツは魔法使いの支配下に置かれ、屋敷やしきしもべ妖精ようせいは惨殺ざんさつされている。それなのに、杖を持つ者の中で、誰が抗議こうぎをしていますか」
「私たちがしているわ」
ハーマイオニーは背筋を正し、目をキラキラさせていた。
「私たちが抗議しているわ それに、グリップフック、私は小鬼やしもべ妖精と同じぐらい厳きびしく狩かり立てられているのよ 私は『穢けがれた血ち』なの」
「自分のことをそんなふうに――」ロンがボソボソつぶやいた。
「どうしていけないの」ハーマイオニーが言った。「『穢れた血』、それが誇りよ 新しい秩ちつ序じょの下での私の地位は、グリップフック、あなたと違いはないわ マルフォイの館で、あの人たちが拷問ごうもんにかけるために選んだのは、私だったのよ」
話しながら、ハーマイオニーは部屋着の襟えりを横に引いて、ベラトリックスにつけられた切り傷きずを見せた。喉のどに赤々と、細い傷があった。