「ドビーを解放かいほうしたのがハリーだということを、あなたは知っていた」ハーマイオニーが聞いた。「私たちが、何年も前から屋敷しもべ妖精を解放したいと望んでいたことを知っていた」ロンは、ハーマイオニーの椅い子すの肘ひじで、気まずそうにそわそわした。「グリップフック、『例のあの人』を打ち負かしたいという気持が、私たち以上に強い人なんかいないわ」
グリップフックは、ハリーに向けたと同じような好奇こうきの目で、ハーマイオニーを見つめた。
「レストレンジ家の金庫で、何を求めたいのですか」
グリップフックが唐突とうとつに聞いた。
「中にある剣つるぎは偽物にせものです。こちらが本物です」
グリップフックは三人の顔を順繰じゅんぐりに見た。
「あなたたちは、もうそのことを知っているのですね。あそこにいたとき、私に嘘うそをつくように頼みました」
「でも、その金庫にあるのは、偽の剣だけじゃないだろう」ハリーが聞いた。「君はたぶん、ほかの物も見ているね」
ハリーの心臓は、これまでにないほど激はげしく打っていた。ハリーは、傷痕きずあとの疼うずきを無視しようと、さらにがんばった。
小鬼こおには、また指に顎あごひげをからませた。
「グリンゴッツの秘密を話すことは、我々の綱領こうりょうに反します。小ゴブ鬼リンはすばらしい宝物の番人なのです。我々に託たくされた品々は、往々おうおうにして小鬼の手によって鍛錬たんれんされた物なのですが、それらの品に対しての責任があります」
小鬼は剣をなで、黒い目がハリー、ハーマイオニー、ロンを順に眺ながめ、また逆の順で視線を戻した。
「こんなに若いのに」しばらくしてグリップフックが言った。「あれだけ多くの敵と戦うなんて――」
「僕たちを助けてくれる」ハリーが言った。「小鬼ゴブリンの助けなしに押し入るなんて、とても望みがない。君だけが頼りなんだ」
「私は……考えてみましょう」
グリップフックは、腹立たしい答え方をした。
「だけど――」ロンが怒ったように口を開いたが、ハーマイオニーはロンの肋骨あばらぼねを小こ突づいた。
「ありがとう」ハリーが言った。
小鬼は大きなドーム型の頭を下げて礼に応こたえ、それから短い脚あしを曲げた。
「どうやら」ビルとフラーのベッドに、これ見よがしに横になり、グリップフックが言った。「『骨生ほねはえ薬ぐすり』の効果が出たようです。やっと眠れるかもしれません。失礼して……」
「ああ、もちろんだよ」ハリーが言った。部屋を出るとき、ハリーは屈かがんで小鬼の横からグリフィンドールの剣を取った。グリップフックは逆らわなかったが、ドアを閉めるときに、小鬼の目に恨うらみがましい色が浮かぶのを、ハリーは見たような気がした。