「ハリー」
ハーマイオニーが二人をドアから離し、まだ暗い踊おどり場ばの真ん中まで引っ張っていった。
「あなたの言っていることは、つまりこういうことかしら レストレンジ家の金庫に、分霊ぶんれい箱ばこの一つがある。そういうことなの」
「そうだ」ハリーが言った。「ベラトリックスは、僕たちがそこに入ったと思って、逆上するほど怯おびえていた。どうしてだ 僕たちが何を見たと思ったんだろう 僕たちが、ほかに何を取ったと思ったんだろう 『例のあの人』に知れるのではないかと思って、ベラトリックスが正気を失うほど恐れた物なんだよ」
「でも、僕たち、『例のあの人』がいままで行ったことのある場所を探してるんじゃなかったか あの人が、何か重要なことをした場所じゃないのか」ロンは困惑こんわくした顔だった。「あいつがレストレンジ家の金庫に、入ったことがあるって言うのか」
「グリンゴッツに入ったことがあるかどうかは、わからない」ハリーが言った。「あいつは、若いとき、あそこに金貨なんか預けていなかったはずだ。誰も何も遺のこしてくれなかったんだから。でも、銀行を外から見たことはあっただろう。ダイアゴン横丁よこちょうに最初に行ったときに」
傷痕きずあとがズキズキ痛んだが、ハリーは無視した。オリバンダーと話をする前に、ロンとハーマイオニーに、グリンゴッツのことを理解しておいてほしかった。
「あいつは、グリンゴッツの金庫の鍵かぎを持つ者を、羨うらやましく思ったんじゃないかな。あの銀行が、魔法界に属していることの真の象しょう徴ちょうに見えたんだと思う。それに、忘れてならないのは、あいつが、ベラトリックスとその夫を信用していたということだ。二人とも、あいつが力を失うまで、最も献けん身しん的てきな信しん奉ぽう者しゃだったし、あいつが消えてからも探し求め続けた。あいつが蘇よみがえった夜にそう言うのを、僕は聞いた」
ハリーは傷痕を擦こすった。
「だけど、ベラトリックスに、分霊箱を預けるとは言わなかったと思う。ルシウス・マルフォイにも、日記に関する本当のことは一度も話していなかった。ベラトリックスにはたぶん、大切な所しょ持じ品ひんだから金庫に入れておくようにと頼たのんだんだろう。ハグリッドが僕に教えてくれたよ。何かを安全に隠しておくには、グリンゴッツがいちばんだって……ホグワーツ以外にはね」
ハリーが話し終えると、ロンがうなずきながら言った。
「君って、ほんとに『あの人』のことがわかってるんだな」
「あいつの一部だ」ハリーが言った。「一部だけなんだ……僕、ダンブルドアのことも、それくらい理解できていたらよかったのに。でも、そのうちに――。さあ――こんどはオリバンダーだ」