ロンとハーマイオニーは当とう惑わく顔がおだったが、感心したようにハリーのあとに従ついて、小さな踊り場を横切った。ハリーがビルとフラーの寝室の向かい側のドアをノックすると、「どうぞ」という弱々しい声が答えた。
杖作つえつくりのオリバンダーは、窓からいちばん離れたツインベッドに横たわっていた。一年以上地ち下か牢ろうに閉じ込められ、ハリーの知るかぎり少なくとも一度は拷問ごうもんを受けたはずだ。痩やせ衰おとろえ、黄ばんだ肌はだから顔の骨格がくっきりと突き出ている。大きな銀色の目は、眼窩がんかが落ち窪くぼんで巨大に見えた。毛布の上に置かれた両手は、骸骨がいこつの手と言ってもよかった。ハリーは、空いているベッドにロンとハーマイオニーと並んで腰掛こしかけた。ここからは、昇る朝日は見えなかった。部屋は、崖がけの上に作られた庭と掘られたばかりの墓とに面していた。
「オリバンダーさん、お邪魔じゃましてすみません」ハリーが言った。
「いやいや」オリバンダーはか細い声で言った。「あなたは、わしらを救い出してくれた。あそこで死ぬものと思っていたのに。感謝かんしゃしておるよ……いくら感謝しても……しきれないぐらいに」
「お助けできてよかった」
ハリーの傷痕きずあとが疼うずいた。ヴォルデモートよりも先に目的地に行くにしても、ヴォルデモートの試みを挫くじくにしても、もはやほとんど時間がないことをハリーは知っていた。いや、確信していた。ハリーは突然恐怖きょうふを感じた……しかし、グリップフックに先に話をするという選択せんたくをしたときに、ハリーの心は決まっていたのだ。無理に平静へいせいを装よそおい、ハリーは首から掛かけた巾きん着ちゃくの中を探って、二つに折れた杖を取り出した。
「オリバンダーさん、助けてほしいんです」
「何なりと、何なりと」杖作りは弱々しく答えた。
「これを直せますか 可能ですか」
オリバンダーは震える手を差し出し、ハリーはその手のひらに、辛かろうじて一つにつながっている杖を置いた。
「柊ひいらぎと不ふ死し鳥ちょうの尾お羽ば根ね」オリバンダーは、緊きん張ちょう気ぎ味みに震える声で言った。「二十八センチ、良質でしなやか」
「そうです」ハリーが言った。「できますか――」
「いや」オリバンダーが囁ささやくように言った。「すまない。本当にすまない。しかし、ここまで破壊はかいされた杖は、わしの知っておるどんな方法をもってしても、直すことはできない」
ハリーは、そうだろうと心の準備じゅんびをしていたものの、やはり落らく胆たんした。二つに折れた杖を引き取り、ハリーは首に掛けた巾着の中に戻した。オリバンダーは、破壊された杖が消えたあたりをじっと見つめ続け、ハリーがマルフォイの館から持ち帰った二本の杖をポケットから取り出すまで、目を逸そらさなかった。