「どういう杖か、見ていただけますか」ハリーが頼んだ。
杖作りは、その中の一本を取って、弱った目の近くにかざし、関節の浮き出た指の間で転がしてからちょっと曲げた。
「鬼おに胡桃ぐるみとドラゴンの琴線きんせん」オリバンダーが言った。「三十二センチ。頑固がんこ。この杖はベラトリックス・レストレンジのものだ」
「それじゃ、こっちは」
オリバンダーは同じようにして調べた。
「サンザシと一角獣ユニコーンのたてがみ。きっちり二十五センチ。ある程度弾だん力りょく性せいがある。これはドラコ・マルフォイの杖つえだった」
「だった」ハリーが繰り返した。「いまでも、まだドラコのものでしょう」
「たぶん違う。あなたが奪うばったのであれば――」
「――ええ、そうです――」
「――それなら、この杖はあなたのものであるかもしれない。もちろん、どんなふうに手に入れたかが関係してくる。杖そのものに負うところもまた大きい。しかし、一般的に言うなら、杖を勝ち取ったのであれば、杖の忠ちゅう誠せい心しんは変わるじゃろう」
部屋は静かだった。遠い波の音だけが聞こえていた。
「まるで、杖が感情を持っているような話し方をなさるんですね」ハリーが言った。「まるで、杖が自分で考えることができるみたいに」
「杖が魔法使いを選ぶのじゃ」オリバンダーが言った。「そこまでは、杖の術を学んだ者にとって、常に明白なことじゃった」
「でも、杖に選ばれなかったとしても、その杖を使うことってできるのですか」ハリーが言った。
「ああ、できますとも。いやしくも魔法使いなら、ほとんどどんな道具を通してでも魔法の力を伝えることはできる。しかし最高の結果は必ず、魔法使いと杖との相性がいちばん強いときに得られるはずじゃ。こうしたつながりは、複雑ふくざつなものがある。最初に惹ひかれ合い、それからお互いに経験を通して探求する。杖は魔法使いから、魔法使いは杖から学ぶのじゃ」
寄せては返す波の音は、哀調あいちょうを帯びていた。
「僕はこの杖を、ドラコ・マルフォイから力ずくで奪いました」ハリーが言った。「僕が使っても安全でしょうか」
「そう思いますよ。杖の所有権を司つかさどる法則には微妙びみょうなものがあるが、克服こくふくされた杖は通常、新しい持ち主に屈服くっぷくするものじゃ」