「いやなチビ」ロンが囁ささやいた。「僕たちがやきもきするのを、楽しんでやがる」
オリバンダーは、打ちのめされたような顔をした。
「『あの人』はわしを拷問ごうもんした」オリバンダーはあえいだ。「『磔はりつけの呪のろい』……どんなにひどいかわからんじゃろう……」
「わかります」ハリーが言った。「ほんとにわかるんです。どうぞ少し休んでください。いろいろ教えていただいて、ありがとうございました」
ハリーは、ロンとハーマイオニーの先に立って階段を下りた。ビル、フラー、ルーナ、ディーンが紅茶カップを前に、キッチンのテーブルに着いているのがちらりと見えた。入口にハリーの姿が見えると、みんないっせいにハリーを見た。しかし、ハリーはみんなに向かってうなずいただけで、そのまま庭に出ていった。ロンとハーマイオニーがあとから従ついていった。少し先にあるドビーを葬ほうむった赤味がかった土の塚つかまで、ハリーは歩いた。頭痛がますますひどくなっていた。無理やり入ってこようとする映像えいぞうを締しめ出すのは、いまや生なまやさしい努力ではなかった。しかし、もう少しだけ耐たえればいいことを、ハリーは知っていた。まもなくハリーは屈くっ服ぷくするだろう。なぜなら、自分の理論が正しいことを知る必要があるからだ。ロンとハーマイオニーに説明できるように、あと少しだけ、もうひとがんばりしなければならない。
「グレゴロビッチは、ずいぶん昔、『ニワトコの杖つえ』を持っていた」ハリーが言った。「『例のあの人』がグレゴロビッチを探そうとしているところを、僕は見たんだ。見つけ出したときには、グレゴロビッチがもう杖を持っていないことを、『あの人』は知った。グリンデルバルドに盗まれたということを知ったんだ。グリンデルバルドがどうやって、グレゴロビッチが杖を持っていることを知ったかはわからない――でも、グレゴロビッチが自分から噂うわさを流すようなばかなまねをしたというなら、知るのはそれほど難しくはなかっただろう」
ヴォルデモートはホグワーツの校門にいた。ハリーは、そこに立つヴォルデモートを見た。同時に、夜明け前の校庭から、ランプが揺ゆれながら校門に近づいてくるのも見えた。
「それで、グリンデルバルドは『ニワトコの杖』を使って、強大になった。その力が最さい高潮こうちょうに達したとき、ダンブルドアは、それを止めることができるのは自分一人だと知り、グリンデルバルドと決闘けっとうして打ち負かした。そして『ニワトコの杖』を手に入れたんだ」
「ダンブルドアが『ニワトコの杖』を」ロンが言った。「でも、それなら――杖はいまどこにあるんだ」
「ホグワーツだ」ハリーが答えた。
二人と一緒いっしょにいるこの崖上がけうえの庭に踏ふみとどまろうと、ハリーは、自分自身と必死に戦っていた。
「それなら、行こうよ」ロンが焦あせった。「ハリー、行って杖つえを取ろう。あいつがそうする前に」
「もう遅すぎる」
ハリーが言った。意識を引き込まれまいと抵抗ていこうする自分自身の頭を助けようとして、ハリーは思わずしっかり頭をつかんでいた。
「あいつは杖のある場所を知っている。いま、あいつはそこにいる」