「ハリー」ロンがかんかんに怒った。「どのくらい前からそれを知ってたんだ――僕たち、どうして時間をむだにしたんだ なんでグリップフックに先に話をしたんだ もっと早く行けたのに――いまからでもまだ――」
「いや」
ハリーは草に膝ひざをついてしゃがみ込んだ。
「ハーマイオニーが正しかった。ダンブルドアは僕にその杖を持たせたくなかった。その杖を取らせたくなかったんだ。僕に分ぶん霊れい箱ばこを見つけ出させたかったんだ」
「無敵の杖だぜ、ハリー」ロンがうめいた。
「僕はそうしちゃいけないはずなんだ……僕は分霊箱を探すはずなんだ……」
そして突然、何もかもが涼すずしく、暗くなった。太陽は地平線からまだほとんど顔を出しておらず、ハリーは、スネイプと並んで湖へと校庭を滑すべるように歩いていた。
「まもなく、城でおまえに会うことにする」彼は高い冷たい声で言った。「さあ、俺様おれさまを一人にするのだ」
スネイプは頭を下げ、黒いマントを後ろになびかせて、いま来た道を戻っていった。ハリーはスネイプの姿が消えるのを待ちながら、ゆっくりと歩いた。これから自分が行くところを、スネイプは見てはならない、いや、実は何なん人ぴとも見てはならないのだ。幸い、城の窓には明かりもなく、しかも彼は自分を隠すことができる……一瞬いっしゅんにして彼は自分に「目くらまし術じゅつ」をかけ、自分の目からさえ姿を隠した。
そして彼は、湖の縁ふちを歩き続けた。愛いとおしい城、自分の最初の王国、自分が受け継ぐ権利のある城の輪郭りんかくをじっくり味わいながら……。
そして、ここだ。湖のほとりに建たち、その影を暗い水に映している白い大だい理り石せきの墓。見知った光景には不必要な汚点おてんだ。彼は再び、抑制よくせいされた高こう揚よう感かんが押し寄せてくるのを感じた。破壊はかいの際に感じる、あの陶然とうぜんとした目的意識だ。彼は古いイチイの杖を上げた。この杖の最後の術としては、なんとふさわしい。
墓は、上から下まで真っ二つに割れて開いた。帷子かたびらに包まれた姿は、生前と同じように細く長い。彼はもう一度杖つえを上げた。
覆おおいが落ちた。死に顔は青く透すき通り、落おち窪くぼんではいたが、ほとんど元のままに保たれていた。曲がった鼻に、メガネが載のせられたままだ。彼は、ばかばかしさを嘲笑あざわらいたかった。ダンブルドアの両手は胸の上に組まれ、それはそこに、両手の下にしっかり抱かれて、ダンブルドアとともに葬ほうむられていた。
この老いぼれは、大だい理り石せきか死が、杖を守るとでも思ったのか 闇やみの帝王ていおうが墓を冒涜ぼうとくすることを恐れるとでも思ったのか
蜘く蛛ものような指が襲おそいかかり、ダンブルドアが固く抱いた杖を引っ張った。彼がそれを奪うばったとき、杖の先から火花が噴ふき出し、最後の持ち主の亡骸なきがらに降ふりかかった。杖はついに、新しい主人に仕つかえる準備じゅんびができたのだ。