三人はまた黙り込んだ。同じくらい価値のある何かを提案してみたところで、グリップフックは剣以外の物は絶対に受け入れないだろう、とハリーは思った。とはいえ剣は、自分たちにとって一つしかない、分ぶん霊れい箱ばこに対するかけがえのない武器だ。
ハリーは目を閉じて、わずかの間、海の音を聞いた。グリフィンドールが剣つるぎを盗んだかもしれないと思うと、いやな気分だった。ハリーは、グリフィンドール生であることをいつも誇ほこりにしてきた。グリフィンドールは、マグル生まれのために戦った英雄であり、純血じゅんけつ好きのスリザリンと衝突しょうとつした魔法使いだった……。
「グリップフックが、嘘うそをついているのかもしれない」ハリーは再び目を開けた。「グリフィンドールは、剣を盗んでいないかもしれない。小鬼こおに側の歴史が正しいかどうかも、誰にもわからないだろう」
「それで何か変わるとでも言うの」ハーマイオニーが聞いた。
「僕の感じ方が変わるよ」ハリーが言った。
ハリーは深呼吸した。
「グリップフックが金庫に入る手助けをしてくれたら、そのあとで剣をやると言おう――でも、いつ渡すかは、正確には言わないように注意するんだ」
ロンの顔にゆっくりと笑いが広がった。しかし、ハーマイオニーは、とんでもないという顔だった。
「ハリー、そんなことできない――」
「グリップフックにあげるんだ」ハリーは言葉を続けた。「全部の分霊箱に剣を使い終わってからだ。そのときに必ず彼の手に渡す。約束は守るよ」
「でも、何年もかかるかもしれないわ」ハーマイオニーが言った。
「わかっているよ。でもグリップフックはそれを知る必要はない。僕は嘘を言うわけじゃない……と思う」
ハリーは、抗議こうぎと恥とが入り交じった気持でハーマイオニーの目を見た。ヌルメンガードの入口に彫ほられた言葉を、ハリーは思い出した。「より大きな善のために」ハリーはその考えを払い退のけた。ほかにどんな選せん択たくがあると言うのか
「気に入らないわ」ハーマイオニーが言った。
「僕だって、あんまり」ハリーも認めた。
「いや、僕は天才的だと思う」ロンは再び立ち上がりながら言った。「さあ、行って、やつにそう言おう」