いちばん小さい寝室に戻り、ハリーは、剣を渡す具体的なときを言わないように慎重しんちょうに言葉を選んで提案した。ハリーが話している間、ハーマイオニーは、床をにらみつけていた。ハリーは、ハーマイオニーのせいで計画を読まれてしまうのではないかと、いらだった。しかしグリップフックは、ハリー以外の誰も見ていなかった。
「約束するのですね、ハリー・ポッター 私があなたを助けたら、グリフィンドールの剣を私にくれるのですね」
「そうだ」ハリーが言った。
「では成立です」小鬼こおには、手を差し出した。
ハリーはその手を取って握あく手しゅした。黒い目が、ハリーの目に危き惧ぐの念を読み取りはしないかと心配だった。グリップフックは手を離し、ポンと両手を打ち合わせて「それでは、始めましょう」と言った。
まるで、魔法省に潜入せんにゅうする計画を立てたときの繰り返しだった。いちばん狭せまい寝室で、四人は作業を始めた。グリップフックの好みで、部屋は薄うす暗ぐらいままに保たれた。
「私がレストレンジ家の金庫に行ったのは、一度だけです」
グリップフックが三人に話した。
「贋がん作さくの剣つるぎを、中に入れるように言われたときでした。そこはいちばん古い部屋の一つです。魔法使いの旧家の宝は、いちばん深いところに隠され、金庫はいちばん大きく、守りもいちばん堅かたい……」
四人は、納戸なんどのような部屋に、何度も何時間もこもった。のろのろと数日が過ぎ、それが何週間にも及んだ。次から次と難題が出てきた。一つの大きな問題は、手持ちのポリジュース薬がすでに相当少なくなっていたことだ。
「ほんとに一人分しか残っていないわ」ハーマイオニーが、泥どろのような濃こい液体を傾けて、ランプの明かりにかざしながら言った。
「それで十分だよ」グリップフックが手描きしたいちばん深い場所の通路の地図を確かめながら、ハリーが言った。
ハリーとロンとハーマイオニーの三人が、食事のときにしか姿を現さなくなったので、「貝かい殻がらの家いえ」の他の住人も何事かが起こっていることに気づかないわけはなかった。しかし、誰も何も聞かなかった。それでもハリーは、食事のテーブルで、考え深げな目で心配そうに三人を見ているビルの視線を、しょっちゅう感じていた。