風が小さな家を揺ゆらし、暖炉だんろの火が爆はぜた。そしてビルは、すぐにワインをもう一本開けた。ルーピンの報しらせはみんなを夢中にさせ、しばしの間、包囲されていることも忘れさせた。新しい生命いのちの吉きっ報ぽうが、心を躍おどらせた。小鬼こおにだけは突然のお祭り気分に無関心な様子で、しばらくするとこっそりと、いまや一人で占領せんりょうしている寝室へと戻っていった。ハリーは、自分だけがそれに気づいていると思ったが、やがて、ビルの目が階段を上がる小鬼を追っていることに気づいた。
「いや……いや……本当にもう帰らなければ」
もう一杯と勧められるワインを断って、ルーピンはとうとう立ち上がり、再び旅行用マントを着た。
「さようなら、さようなら――二、三日のうちに、写真を持ってくるようにしよう――家の者たちも、私がみんなに会ったと知って喜ぶだろう――」
ルーピンはマントの紐ひもを締しめ、別れの挨あい拶さつに女性を抱きしめ、男性とは握あく手しゅして、にこにこ顔のまま、荒れた夜へと戻っていった。
「名付け親、ハリー」テーブルを片付けるのを手伝って、ハリーと一緒にキッチンに入りながら、ビルが言った。「本当に名誉めいよなことだ おめでとう」
ハリーは手に持った空からのゴブレットを下に置いた。ビルは背後のドアを引いて閉め、ルーピンがいなくなっても祝い続けているみんなの話し声を、締しめ出した。
「君と二人だけで話をしたかったんだよ、ハリー。こんなに満員の家ではなかなかチャンスがなくてね」ビルは言いよどんだ。「ハリー、君はグリップフックと何か計画しているね」
疑問ではなく、確信のある言い方だった。ハリーはあえて否定はせず、ただビルの顔を見つめて次の言葉を待った。
「僕は小鬼ゴブリンのことを知っている」ビルが言った。「ホグワーツを卒業してから、ずっとグリンゴッツで働いてきたんだ。魔法使いと小鬼の間に友情が成り立つかぎりにおいてだが、僕には小鬼の友人がいると言える――少なくとも僕がよく知っていて、しかも好意を持っている小鬼がいる」ビルはまた口ごもった。「ハリー、グリップフックに何を要求した 見返りに何を約束した」
「話せません」ハリーが言った。「ビル、ごめんなさい」
背後のキッチンのドアが開いて、フラーが空になったゴブレットをいくつか持って入ってこようとした。
「待ってくれ」ビルがフラーに言った。「もう少しだけ」
フラーは引き下がり、ビルがドアを閉め直した。