「それなら、これだけは言っておかなければ――」ビルが言葉を続けた。「グリップフックと何か取引をしたなら、とくに宝に関する取引なら、特別に用心する必要がある。小鬼の所有や代償だいしょう、報酬ほうしゅうに関する考え方は、ヒトと同じではない」
ハリーは小さな蛇へびが体の中で動いたような、気持の悪い微かすかなくねりを感じた。
「どういう意味ですか」ハリーが聞いた。
「相手は種類が違う生き物だ」ビルが言った。「魔法使いと小鬼の間の取引には、何世紀にもわたってゴタゴタがつき物だった――それは、すべて魔法史で学んだだろう。両方に非があったし、魔法使いが無実だったとは決して言えない。しかし、一部の小鬼の間には、そしてとくにグリンゴッツの小鬼にはその傾向が最も強いのだが、金貨や宝に関しては、魔法使いは信用できないという不信感がある。魔法使いは小鬼の所有権を尊重そんちょうしない、という考え方だ」
「僕は尊重――」ハリーが口を開いたが、ビルは首を振った。
「君にはわかっていないよ、ハリー。小鬼と暮らしたことのある者でなければ、誰も理解できないことだ。小鬼にとっては、どんな品でも、正当な真の持ち主は、それを作った者であり買った者ではない。すべて小鬼の作った物は、小鬼の目から見れば、正当に自分たちのものなのだ」
「でも、それを買えば――」
「――その場合は、金を払った者に貸したと考えるだろう。しかし、小鬼にとって、小鬼の作った品が魔法使いの間で代々受け継がれるという考えは、承服しょうふくし難いものなのだ。グリップフックが、目の前でティアラが手渡されるのを見たときどんな顔をしたか、君も見ただろう。承認しょうにんできないという顔だ。小鬼ゴブリンの中でも強きょう硬こう派はの一人として、グリップフックは、最初に買った者が死んだらその品は小鬼に返すべきだと考えていると思うね。小ゴブ鬼リン製せいの品をいつまでも持っていて、対価たいかも支払わず魔法使いの手から手へと引き渡す我々の習慣は、盗みも同然だと考えている」
ハリーは、いまや不吉ふきつな予感に襲おそわれていた。ビルは、知らないふりをしながら、実はもっと多くのことを推すい測そくしているのではないか、とハリーは思った。
「僕が言いたいのは」ビルが居間へのドアに手をかけながら言った。「小鬼と約束するなら、十分注意しろということだよ、ハリー。小鬼との約束を破るより、グリンゴッツ破りをするほうがまだ危険性が少ないだろう」
「わかりました」居間へのドアを開けたビルに向かって、ハリーが言った。「ビル、ありがとう。僕、肝きもに銘めいじておく」
ビルのあとからみんなのいるところに戻りながら、ワインを飲んだせいに違いないが、ハリーの頭に皮肉ひにくな考えが浮かんだ。テディ・ルーピンの名な付づけ親おやになった自分は、ハリー自身の名付け親のシリウス・ブラックと同様、向こう見ずな道を歩み出したようだ。