寝室のドアが開いて、グリップフックが入ってきた。ハリーは反はん射しゃ的てきに剣の柄つかをつかんで引き寄せたが、すぐに後悔した。その動きを小鬼こおにに気づかれたことがわかったのだ。気まずい瞬しゅん間かんを取り繕つくろおうとして、ハリーが言った。
「グリップフック、最終チェックをしていたところだよ。ビルとフラーには、僕たちが明日発たつことを知らせて、わざわざ早起きして見送ったりしないように言っておいた」
ハリーたちは、この点は譲ゆずらなかった。出発前に、ハーマイオニーがベラトリックスに変身するからだ。それに、これから三人のやろうとしていることを、ビルとフラーは知らないほうがよいし怪あやしまないほうがよいのだ。もうここには戻らないということも説明した。「人さらい」に捕まった夜、パーキンズの古いテントを失ってしまったので、ビルが貸してくれた別のテントが、ハーマイオニーのビーズバッグに納まっていた。ハリーはあとで知って感心したのだが、ハーマイオニーはバッグを、片方のソックスに突っ込むというとっさの機転きてんで賊ぞくから守ったのだ。
ビルやフラー、ルーナやディーンたちと別れるのは寂さびしかったし、この数週間満まん喫きつしていた家庭の温ぬくもりを失うのも、もちろん辛つらかった。しかしその反面、ハリーは「貝かい殻がらの家いえ」に閉じ込められた状態から抜け出すのも待ち遠しかった。盗み聞きされないように気を使うことにも、小さな暗い部屋に閉じこもるのにも、うんざりしていた。とくに、グリップフックを厄やっ介かい払ばらいしたくてたまらなかった。しかし、いつ、どのようにして、しかもグリフィンドールの剣つるぎを渡さずに小鬼と別れるかは未解決の問題で、ハリーは答えを持ち合わせていなかった。小鬼が、ハリー、ロン、ハーマイオニーの三人だけを残して五分以上いなくなることはめったになかったので、その問題をどう解決するかを決めるのは不可能だった。
「あいつ、ママより一枚上手うわてだぜ」
小鬼の長い指が、あまりにも頻ひん繁ぱんにドアの端はしから現れるので、ロンがうなるように言った。ハリーは、ビルの教訓きょうくんを思い出し、グリップフックが、ペテンにかけられることを警けい戒かいしているのではないかと疑わざるをえなかった。ハーマイオニーが、裏切り行為こういの計画には徹底的に反対だったので、ハリーは、うまく切り抜ける方法についてハーマイオニーの頭脳を借りることをとっくにあきらめていた。ごく稀まれに、ロンと二人だけでグリップフックなしの数分間をかすめ盗ることができても、ロンの考えはせいぜい「出たとこ勝負さ、おい」だった。