「単にあなたに、挨あい拶さつをしようとしただけだ」トラバースが冷たく言った。「しかし、私が目め障ざわりだということなら……」
ハリーは、ようやくその声を思い出した。トラバースは、ゼノフィリウスの家に呼び寄せられた死し喰くい人びとの一人だった。
「いや、いや、トラバース、そんなことはない」ハーマイオニーは失敗を取とり繕つくろうために、急いで言った。「しばらくだった」
「いやあ、正直言って、ベラトリックス、こんなところでお見かけするとは驚いた」
「そうか なぜだ」ハーマイオニーが聞いた。
「それは」トラバースは咳せき払ばらいした。「聞いた話だが、マルフォイの館の住人は軟なん禁きん状じょう態たいだとか。つまり……その……逃げられたあとで」
ハリーは、ハーマイオニーが冷静でいてくれるように願った。もし、それが本当なら、もし、ベラトリックスが公の場に現れるはずがないなら――。
「闇やみの帝てい王おうは、これまでもっとも忠実にあの方にお仕つかえした者たちを、お許しになる」
ハーマイオニーは見事に、ベラトリックスの侮ぶ蔑べつ的てきな調子をまねた。
「トラバース、あなたは私ほどに、あの方の信用を得ていないのではないか」
死喰い人は感情を害したようだったが、同時に怪あやしむ気持は薄うすれたようだった。トラバースは、ロンがいましがた「失しっ神しんの呪じゅ文もん」で倒した男をちらりと見た。
「こいつは、なにゆえお怒りに触ふれたのですかな」
「それはどうでもよい。二度とそんなことはできまい」ハーマイオニーは冷たく言った。
「『杖つえなし』たちの中には、厄やっ介かいなのもいるようですな」トラバースが言った。「物乞ものごいだけしているうちは、私は別にかまわんが、先週、ある女が、魔法省で私に弁護べんごをしてくれと求めてきた。『私は魔女です。魔女なんです。��リンゴッツ Gringotts(6)