「こちらのお連つれは、どなたかな 私には見覚えがないが」
「ドラゴミール・デスパルドだ」
ロンが他人になりすますのには、架空かくうの外国人がいちばん安全だろうと、三人は決めていた。
「英語はほとんどしゃべれない。しかし、闇やみの帝てい王おうの目的に共鳴きょうめいしている。トランシルバニアから、我々の新体制を見学に来たのだ」
「ほう はじめまして、ドラゴミール」
「はじめって」ロンが手を差し出した。
トラバースは指を二本だけ出して、汚れるのが怖こわいとでもいうようにロンと握あく手しゅした。
「ところで、あなたも、こちらの――えーと――共鳴しておられるお連れの方も、こんなに早朝、ダイアゴン横丁よこちょうに何用ですかな」トラバースが聞いた。
「グリンゴッツに用がある」ハーマイオニーが言った。
「なんと、私もだ」トラバースが言った。「金かね、汚きたない金 それなくして我々は生きられん。しかし、実を言うと、指の長い友達とつき合わねばならんのは、嘆なげかわしいかぎりだ」
ハリーは、グリップフックの指が、一瞬いっしゅん首を締しめつけるのを感じた。
「参りましょうか」トラバースがハーマイオニーを、先へと促うながした。
ハーマイオニーはしかたなく並んで歩き、曲りくねった石畳いしだたみの道を、小さな店舗てんぽの上にひときわ高くそびえる雪のように白いグリンゴッツの建物へと向かった。ロンはひっそりと二人の脇わきを歩き、ハリーとグリップフックはその後ろに従ついた。
警けい戒かい心しんの強い死し喰くい人びとが同行するとは、最も望ましくない展開だった。トラバースが、すっかりベラトリックスだと思い込んでハーマイオニーの横を歩いているので、ハリーがハーマイオニーともロンとも話ができないのは最悪だった。そうこうするうちに、大だい理り石せきの階段の下に着いてしまった。階段の上には大きなブロンズの扉とびらがあった。グリップフックに警けい告こくされていたとおり、扉の両側には、制服を着た小鬼こおにの代わりに、細長い金の棒を持った魔法使いが立っている。
「ああ、『潔白けっぱく検査けんさ棒ぼう』だ」
トラバースが大げさな身振りでため息をついた。
「原始的だ――しかし効果あり」
トラバースは階段を上がって、左右の魔法使いにうなずいた。魔法使いたちは金の棒を上げて、トラバースの体を上下になぞった。「検査棒」が、身を隠す呪じゅ文もんや隠し持った魔法の品を探知する棒だということを、ハリーは知っていた。わずか数秒しかないと判断し、ハリーはドラコの杖つえを二人の門番に順に向けて、呪文を二回つぶやいた。
「コンファンド 錯さく乱らんせよ」
ブロンズの扉から中を見ていたトラバースは気づかなかったが、門番の二人は呪文に撃うたれたとたん、ビクッとした。