ハーマイオニーが長い黒くろ髪かみを背中に波打たせて、階段を上った。
「マダム、お待ちください」「検けん査さ棒ぼう」を上げながら、門番が言った。
「たったいま、すませたではないか」
ハーマイオニーが、ベラトリックスの傲ごう慢まんな命令口調で言った。トラバースが眉まゆを吊つり上げて振り向いた。門番は混乱して、細い金の「検査棒」をじっと見下ろし、それからもう一人の門番を見た。
「ああ、マリウス、おまえはたったいま、この方たちを検査したばかりだよ」
相あい方かたは、少しぼーっとした声で言った。
ハーマイオニーがロンと並んで、威圧いあつするように素早く進み、ハリーとグリップフックは、透とう明めいのままそのあとから小走りに進んだ。敷居しきいを跨またいでからハリーがちらりと振り返ると、二人の魔法使いが頭をかいていた。
内扉うちとびらの前には小鬼こおにが二人立っていた。銀の扉には、盗ぬす人びとは恐ろしい報むくいを受けると警けい告こくした詩が書いてある。それを見上げたとたん、ハリーの心に思い出がくっきりと蘇よみがえった。十一歳になった日、人生でいちばんすばらしい誕生日にハリーはこの同じ場所に立っていた。ハグリッドが脇わきに立ち、こう言った。
「言ったろうが。ここから盗もうなんて、狂気の沙さ汰ただわい」
あの日のグリンゴッツは、不思議の国に見えた。魔法のかかった宝の山の蔵、ハリーのものだとはまったく知らなかった黄金。そのグリンゴッツに、盗みに戻ってこようとは、あのときは夢にも思わなかった……次の瞬間しゅんかん、ハリーたちは、広々とした大だい理り石せきのホールに立っていた。
細長いカウンターの向こう側で、脚あし高だかの丸まる椅い子すに座った小鬼たちが、その日の最初の客に応対していた。ハーマイオニー、ロン、トラバースの三人は、片かた眼鏡めがねを掛かけて一枚の分厚ぶあつい金貨を吟味ぎんみしている、年老いた小鬼のほうに向かった。ハーマイオニーは、ロンにホールの特徴とくちょうを説明するという口実で、トラバースに先を譲ゆずった。
小鬼は手にしていた金貨を脇わきに放ほうり投げ、誰に言うともなく言った。
「レプラコーンの偽にせ金貨だ」
それからトラバースに挨あい拶さつし、渡された小さな金の鍵かぎを調べてから持ち主に返した。
ハーマイオニーが進み出た。
「マダム・レストレンジ」
小鬼は、明らかに度肝どぎもを抜かれたようだった。
「なんと な――何のご用命でございましょう」
「私の金庫に入りたい」ハーマイオニーが言った。
年老いた小鬼は、少し後あと退ずさりしたように見えた。ハリーはさっとあたりを見回した。トラバースがまだその場に残って見つめていたし、そればかりでなく、ほかの小鬼も数人、仕事の手を止めて顔を上げ、ハーマイオニーをじっと見ていた。
「あなた様の……身み分ぶん証しょう明めい書しょはお持ちで」小鬼こおにが聞いた。
「身分証明書 こ――これまで、そんなものを要求されたことはない」
ハーマイオニーが言った。
「連中は知っている」グリップフックがハリーの耳に囁ささやいた。「名を騙かたる偽にせ者ものが現れるかもしれないと、警けい告こくを受けているに違いない」
「マダム、あなた様の杖つえで結構でございます」小鬼が言った。
小鬼が微かすかに震える手を差し出した。ハリーはそのとたんに気がついて、ぞっとした。グリンゴッツの小鬼たちは、ベラトリックスの杖が盗まれたことを知っているのだ。