「手のひらを扉に押しつけさせてください」
グリップフックがハリーを促うながした。ハリーは再びボグロッドに杖つえを向けた。年老いた小鬼こおには命令に従い、木の扉に手のひらを押しつけた。金庫の扉が溶とけるように消え、洞どう窟くつのような空間が現れた。天井から床までぎっしり詰まった金貨、ゴブレット、銀の鎧よろい、不気味な生き物の皮――長い棘とげがついている物もあるし、羽は根ねが垂れ下がっているのもある――宝石で飾かざられたフラスコ入りの魔法薬、冠かんむりを被かぶったままの頭骸骨。
「探すんだ、早く」急いで中に入りながら、ハリーが言った。
ハリーは、ハッフルパフのカップがどんなものか、ロンとハーマイオニーに話しておいたが、この金庫に隠されている分ぶん霊れい箱ばこが、それ以外の未知のものなら、何を探してよいのかわからなかった。しかし、全体を見渡す間もなく、背後で鈍にぶい音がして、金庫の扉が再び現れ、ハリーたちは閉じ込められてしまった。あたりはたちまち真っ暗くら闇やみになり、ロンが驚いて叫さけび声を上げた。
「心配いりません。ボグロッドが出してくれます」グリップフックが言った。「杖つえ灯あかりを点つけていただけますか それに、急いでください。ほとんど時間がありません」
「ルーモス 光よ」
ハリーが、杖つえ灯あかりで金庫の中をぐるりと照らした。灯りを受けてキラキラ輝く宝石の中に、ハリーは、いろいろな鎖くさりに混まじって高い棚たなに置かれている偽にせのグリフィンドールの剣つるぎを見つけた。ロンとハーマイオニーも杖灯りを点つけて、周りの宝の山を調べはじめていた。
「ハリー、これはどう―― あぁぅー――」
ハーマイオニーが痛そうに叫さけんだ。ハリーが杖を向けて見ると、宝石を嵌はめ込んだゴブレットがハーマイオニーの手から転がり落ちるところだった。ところが、落ちたとたんにそのゴブレットが分ぶん裂れつして同じようなゴブレットが噴ふき出し、あっという間に床を埋め、カチャカチャとやかましい音を立てながらあちこちに転がりはじめた。もともとのゴブレットがどれだったか、見分けがつかない。
「火傷やけどしたわ」
ハーマイオニーが、火脹ひぶくれになった指をしゃぶりながらうめいた。
「『双子ふたごの呪じゅ文もん』と『燃焼ねんしょうの呪のろい』が追加されていたのです」グリップフックが言った。「触ふれる物はすべて、熱くなり、増ふえます。しかしコピーには価値がない――宝物に触れ続けると、最後には増えた金の重みに押しつぶされて死にます」
「わかった。何にも手を触れるな」
ハリーは必死だった。しかしそう言うそばから、落ちたゴブレットの一つをうっかり足で突ついてしまったロンがその場で飛び跳ねているうちに、ゴブレットがまた二十個ぐらい増えた。ロンの片方の靴くつの一部が、熱い金属に触れて焼け焦こげていた。
「じっとして、動いちゃダメ」ハーマイオニーは急いでロンを押さえようとした。
「目で探すだけにして」ハリーが言った。
「いいか、小さい金のカップだ。穴あな熊ぐまが彫ほってあって、取っ手が二つついている――そのほかに、レイブンクローの印がどこかについていないか見てくれ。鷲わしだ――」