三人はその場で慎重しんちょうに向きを変えながら、隅すみ々ずみの割れ目まで杖で照らした。しかし、何物にも触れないというのは不可能だった。ハリーはガリオン金貨の滝を作ってしまい、偽の金貨がゴブレットと一いっ緒しょになってもはや足の踏ふみ場ばもない。しかも輝く金貨が熱を発し、金庫は竈かまどの中のようだった。ハリーの杖灯りが、天井まで続く棚に置かれた盾たての類たぐいや、小ゴブ鬼リン製せいの兜かぶとを照らし出した。杖灯りを徐々に上へと移動させていくと、突然あるものが見えた。ハリーの心臓は躍おどり、手が震えた。
「あそこだ。あそこ」
ロンとハーマイオニーも、杖をそこに向けた。小さな金のカップが、三方からの杖灯りに照らされて浮かび上がった。ヘルガ・ハッフルパフのものだったカップ。ヘプジバ・スミスに引き継がれ、トム・リドルに盗まれたカップだ。
「だけど、いったいどうやって、何にも触ふれないであそこまで登るつもりだ」
ロンが聞いた。
「アクシオ カップよ、来い」
ハーマイオニーが叫さけんだ。必死になるあまり、計画の段階でグリップフックの言ったことを忘れてしまったらしい。
「むだです。むだ」小鬼こおにが歯は噛がみした。
「それじゃ、どうしたらいいんだ」ハリーは小鬼をにらんだ。「剣つるぎがほしいなら、グリップフック、もっと助けてくれなきゃ――待てよ 剣なら触れられるんじゃないか ハーマイオニー、剣をよこして」
ハーマイオニーはローブをあちこち探ってやっとビーズバッグを取り出し、しばらくガサゴソかき回していたが、やがて輝く剣を取り出した。ハリーはルビーの嵌はまった柄つかを握り、剣先で、近くにあった銀の細ほそ口くち瓶びんに触れてみた。増えない。
「剣をカップの取っ手に引ひっ掛かけられたら――でも、あそこまでどうやって登ればいいんだろう」
カップが置かれている棚たなには、誰も手が届かない。三人の中でいちばん背の高いロンでさえ届かなかった。呪じゅ文もんのかかった宝から出る熱が、熱波ねっぱとなって立ち昇り、カップに届く方法を考えあぐねているハリーの顔からも背中からも、汗が滴したたっていた。そのとき、金庫の扉とびらの向こう側で、ドラゴンの吼ほえ声ごえと、ガチャガチャいう音がだんだん大きくなってくるのが聞こえた。
いまや、完全に包囲されてしまった。出口は扉しかない。しかし扉の向こうには大勢の小鬼が近づきつつあるようだ。ハリーがロンとハーマイオニーを振り返ると、二人とも恐怖きょうふで顔が引きつっていた。
「ハーマイオニー」
ガチャガチャという音がだんだん大きくなる中で、ハリーが呼びかけた。
「僕、あそこまで登らないといけない。僕たちは、あれを破壊はかいしないといけないんだ――」
ハーマイオニーは杖つえを上げ、ハリーに向けて小声で唱となえた。
「レビコーパス 身しん体たい浮上ふじょうせよ」