ハリーの体全体がかかとから持ち上がって、逆さまに宙に浮かんだ。とたんに鎧よろいにぶつかり白熱した鎧のコピーが中から飛び出して、すでに一杯になっている空間をさらに埋めた。ロン、ハーマイオニー、そして二人の小鬼が、押し倒されて痛みに叫びを上げながらほかの宝にぶつかった。その宝のコピーがまた増えた。満みち潮しおのように迫せり上あがってくる灼熱しゃくねつした宝に半分埋まり、みんなが悲鳴を上げてもがく中、ハリーは剣をハッフルパフのカップの取っ手に通し、剣先にカップを引っ掛けた。
「インパービアス 防水・防火せよ」
ハーマイオニーが、自分とロンと二人の小鬼を焼けた金属から守ろうとして、金切かなきり声ごえで呪じゅ文もんを唱となえた。
そのとき一段と大きな悲鳴が聞こえ、ハリーは下を見た。ロンとハーマイオニーが腰まで宝に埋まりながら、宝の満みち潮しおに飲まれようとするボグロッドを救おうともがいていた。しかし、グリップフックはすでに沈んで姿が見えず、長い指の先だけが見えていた。
ハリーは、グリップフックの指先を捕まえて引っ張り上げた。火脹ひぶくれの小鬼こおにが、泣きわめきながら少しずつ上がってきた。
「リベラコーパス 身体自由」
ハリーが呪文じゅもんを叫さけび、グリップフックもろとも、ふくれ上がる宝の表面に音を立てて落下した。剣つるぎがハリーの手を離れて飛んだ。
「剣を」熱い金属が肌はだを焼く痛みと戦いながら、ハリーが叫んだ。
グリップフックは灼熱しゃくねつした宝の山を何が何でも避さけようと、またハリーの肩によじ登った。
「剣はどこだ カップが一いっ緒しょなんだ」
扉とびらの向こうでは、ガチャガチャ音おんが耳を劈つんざくほどに大きくなっていた――もう遅すぎる。
「そこだ」
見つけたのも飛びついたのも、グリップフックだった。そのとたんハリーは、小鬼が自分たちとの約やく束そくをまったく信用していなかったことを思い知った。グリップフックは、焼けた宝の海のうねりに飲み込まれまいと片手でハリーの髪かみの毛をむんずとつかみ、もう一方の手に剣の柄つかをつかんで、ハリーに届かないよう高々と振り上げた。
剣けん先さきに取っ手が引ひっ掛かかっていた小さな金のカップが、宙に舞った。小鬼を肩車したまま、ハリーは飛びついてカップをつかんだ。カップがじりじりと肌はだを焼くのを感じながらも、ハリーはカップを離さなかった。数えきれないハッフルパフのカップが、握った手の中から飛び出して、雨のように降ふりかかってきても離さなかった。そのとき金庫の入口が開き、ハリーはふくれ続けた火のように熱い金銀の雪崩なだれになす術すべもなく流されて、ロン、ハーマイオニーと一いっ緒しょに金庫の外に押し出された。