体中を覆おおう火傷やけどの痛みもほとんど意識せず、増え続ける宝のうねりに流されながらハリーはカップをポケットに押し込んで、剣を取り戻そうと手を伸ばした。しかし、グリップフックはもういなかった。頃合ころあいを見計みはからって、素早くハリーの肩から滑すべり降おりたグリップフックは、周囲を取り囲む小鬼の中にまぎれ込み、剣を振り回して叫んだ。
「泥どろ棒ぼう 泥棒 助けて 泥棒だ」
グリップフックは、攻め寄せる小鬼の群れの中に消えた。手に手に短刀を振りかざした小鬼たちは、何の疑問もなくグリップフックを受け入れたのだ。
熱い金属に足を取られながら、ハリーは何とか立ち上がろうともがき、脱出するには囲みを破るほかはないと覚悟した。
「ステューピファイ 麻ま痺ひせよ」
ハリーの叫さけびに、ロンとハーマイオニーも続いた。赤い閃せん光こうが小鬼こおにの群れに向かって飛び、何人かがひっくり返ったが、ほかの小鬼が攻め寄せてきた。その上、魔法使いの門番が数人、曲り角を走ってくるのが見えた。
つながれたドラゴンが咆ほえ哮たけり、吐はき出す炎が小鬼の頭上を飛び過ぎた。魔法使いたちは身を屈かがめて逃げ出し、いま来た道を後こう退たいした。そのとき、啓示けいじか狂気か、ハリーの頭に突然閃ひらめくものがあった。ドラゴンを岩がん盤ばんに鎖くさりでつないでいるがっしりした足あし枷かせに杖つえを向け、ハリーは叫んだ。
「レラシオ 放はなせ」
足枷が爆音を上げて割れた。
「こっちだ」ハリーが叫んだ。そして、攻め寄せる小鬼たちに「失しっ神しんの呪じゅ文もん」を浴びせかけながら、ハリーは目の見えないドラゴンに向かって全速力で走った。
「ハリー――ハリー――何をするつもりなの」ハーマイオニーが叫んだ。
「乗るんだ、よじ登って、さあ――」
ドラゴンは、まだ自由になったことに気づいていなかった。ハリーはドラゴンの後あと脚あしの曲がった部分を足がかりにして、背中によじ登った。鱗うろこが鋼こう鉄てつのように硬かたく、ハリーが乗ったことも感じていないようだった。ハリーが伸ばした片腕にすがって、ハーマイオニーも登った。そのあとをロンが登ってきた直後、いまや縛いましめを解かれたことにドラゴンが気づいた。
ドラゴンは、一声吼ほえて後脚で立ち上がった。ハリーはゴツゴツした鱗を力のかぎりしっかりつかみ、両膝りょうひざをドラゴンの背に食い込ませた。ドラゴンは両の翼つばさを開き、悲鳴を上げる小鬼たちをボウリングのピンのようになぎ倒して、舞い上がった。ハリー、ロン、ハーマイオニーの三人は、トンネルの開口部方向に突っ込んでいくドラゴンの背中にぴったり張りついていた。天井で体がこすれ、その上、追っ手の小鬼たちが投げる短剣が、ドラゴンの脇わき腹ばらをかすめた。