「わからないよ」ハリーが叫び返した。
冷たくて手の感覚がなくなっていたが、かといって握り直すことなど怖こわくてとてもできない。ハリーはこの間、眼下に海岸線が通り過ぎるのが見えたらどうしようと考えていた。もしドラゴンが広い海に向かっていたらどうなるのだろう。ハリーは寒さにかじかんでいた。そればかりか、死ぬほど空腹で喉のども渇かわいていた。このドラゴンが最後に餌えさを食ったのはいつだろう きっとそのうちに、食料補給ほきゅうが必要になるのではないだろうか そして、もしそのとき、三人のちょうど食べごろの人間が背中に乗っていることに気づいたら
太陽が傾き、空は藍あい色いろに変わったが、ドラゴンはまだ飛び続けていた。大小の街まちが矢のように通り過ぎ、ドラゴンの巨大な影が、大きな黒雲のように地上を滑すべっていった。ドラゴンの背に必死にしがみついているだけで、ハリーは体中のあちらこちらが痛んだ。
「僕の錯さっ覚かくかなぁ」長い無言の時間が過ぎ、やがてロンが叫さけんだ。「それとも、高度が下がっているのかなぁ」
ハリーが下を見ると、日にち没ぼつの光で赤しゃく銅どう色いろに染まった深い緑の山々と湖がいくつか見えた。ドラゴンの脇わき腹ばらから目を細めて確かめているうちにも、見る見る景色は大きくなり、細部が見えてきた。ハリーは、ドラゴンが、陽ひの光の反はん射しゃで淡たん水すいの存在を感じ取ったのではないかと思った。
ドラゴンは次第に低く飛び、大きく輪を描きながら、小さめの湖の一つに的まとをしぼり込んでいるようだった。
「十分低くなったら、いいか、飛び込め」ハリーが後ろに呼びかけた。「ドラゴンが僕たちの存在に気づく前に、まっすぐ湖に」
二人は了解りょうかいしたが、ハーマイオニーの返事は少し弱々しかった。そのときハリーには、ドラゴンの広い黄色い腹が湖の面おもてに映って、小さく波打っているのが見えた。
「いまだ」