ニワトコの杖つえが空くうを切り、緑の閃せん光こうが部屋中に走った。ひざまずいていた小鬼が、転がって絶ぜつ命めいした。周りで見ていた魔法使いたちは、怯おびえきって飛び退のき、ベラトリックスとルシウス・マルフォイは、ほかの者を押し退のけて、真っ先に扉とびらへと走った。ヴォルデモートの杖が、何度も何度も振り下ろされ、逃げ遅れた者は、一人残らず殺された。こんな報しらせを俺様にもたらし、金のカップのことを聞いてしまったからには――。
屍しかばねの間を、ヴォルデモートは荒々しく往いったり来たりした。頭の中に、次々に浮かんでくるイメージ。自分の宝、自分の守り、不死の碇おきて――日記帳は破壊はかいされ、カップは盗まれた。もしも、もしもあの小僧が、ほかの物も知っているとしたなら 知っているのだろうか すでに行動に移したのか ほかの物も探し出したのか ダンブルドアがやつの陰にいるのか 俺様をずっと疑っていたダンブルドア、俺様の命令で死んだダンブルドア、いまやその杖は俺様のものとなったというのに、ダンブルドアは恥ずべき死の向こうから手を伸ばし、あの小僧を通して、あの小僧め――。
しかし、もしあの小僧が分ぶん霊れい箱ばこのどれかを破壊してしまったのなら、間違いなく、このヴォルデモート卿きょうにはわかったはずだ。感じたはずではないか 最も偉大なる魔法使いの俺様が、最も強大な俺様が、ダンブルドアを亡き者にし、ほかの名もない虫けらどもを数えきれないほど始末してくれたこの俺様が――そのヴォルデモート卿が、いちばん大切で尊たっとい俺様自身が襲おそわれ傷きずつけられるのに、気づかぬはずがないではないか
たしかに、日記帳が破壊されたときには感じなかった。しかしあれは、感じるべき肉体を持たず、ゴースト以下の存在だったからだ……いや、間違いない。ほかの物は安全だ……ほかの分ぶん霊れい箱ばこは手つかずだ……。
しかし、知っておかねばならぬ、確かめねば……。ヴォルデモートは部屋を往いき来しながら、小鬼こおにの死体を蹴け飛とばした。煮にえくり返った頭に、ぼんやりとしたイメージが燃え上がった。湖、小屋、そしてホグワーツ……。