ハリーの足が道路に触ふれた。胸が痛くなるほど懐なつかしいホグズミードの大通りが目に入った。暗い店先、村の向こうには山々の黒い稜線りょうせん、道の先に見えるホグワーツへの曲り角、「三本の箒ほうき」の窓から漏もれる明かり。そしてほぼ一年前、絶望的に弱っていたダンブルドアを支えてここに降おり立ったときのことが細部まで鮮せん明めいに思い出されて、ハリーは心が揺ゆすぶられた。降り立った瞬間しゅんかん、そうしたすべての想いが一度に押し寄せた――しかしそのとき――ロンとハーマイオニーの腕をつかんでいた手を緩ゆるめた、まさにそのときに事は起こった。
ギャーッという叫さけび声が空気を切り裂さいた。カップを盗まれたと知ったときの、ヴォルデモートの叫びのような声だった。ハリーは、神経という神経を逆なでされるように感じた。三人が現れたことが引き金になったのだと、ハリーにはすぐにわかった。マントに隠れたほかの二人を振り返る間に「三本の箒」の入口が勢いよく開き、フードを被かぶったマント姿の死し喰くい人びとが十数人、杖つえを構えて道路に躍おどり出た。
杖を上げるロンの手首を、ハリーが押さえた。失しっ神しんさせるには相手が多すぎる。呪じゅ文もんを発するだけで、敵に居所を教えてしまうだろう。死喰い人の一人が杖を振ると、叫び声はやんだが、まだ遠くの山々にこだまし続けていた。
「アクシオ 透とう明めいマントよ、来い」死喰い人が大声で唱となえた。
ハリーはマントの襞ひだをしっかりつかんだが、マントは動く気配さえない。「呼よび寄よせ呪じゅ文もん」は、「透明マント」には効かなかった。
「被り物はなしということか、え、ポッター」
呪文をかけた死喰い人が叫んだ。それから仲間に指令を出した。
「散れ、やつはここにいる」
死喰い人が六人、ハリーたちに向かって走ってきた。ハリー、ロン、ハーマイオニーは急いで後あと退ずさりし、近くの脇わき道みちに入ったが、死喰い人たちはそこからあと十数センチというところを通り過ぎていった。三人が暗くら闇やみに身を潜ひそめてじっとしていると、死喰い人の走り回る足音が聞こえ、捜そう索さくの杖つえ灯あかりが通りを飛び交うのが見えた。