ハリーにはどこなのかまったくわからなかったが、明めい滅めつする一本の蝋ろう燭そくの明かりであらためて見ると、そこは、おが屑くずの撒まき散らされた汚らしい「ホッグズ・ヘッド」のバーだった。三人はカウンターの後ろに駆かけ込み、もう一つ別の扉とびらを通って、ぐらぐらした木の階段を急いで上がった。階段の先はすり切れたカーペットの敷しかれた居間で、小さな暖炉だんろがあり、その上にブロンドの少女の大きな油絵あぶらえが一枚掛かかっていた。少女はどこか虚うつろな優しい表情で、部屋を見つめている。
下の通りでわめく声が聞こえてきた。「透とう明めいマント」を被かぶったまま、三人は埃ほこりでべっとり汚れた窓に忍び寄り、下を見た。救い主は――ハリーにはもう「ホッグズ・ヘッド」のバーテンだとわかっていたが――ただ一人だけフードを被っていない。
「それがどうした」
バーテンは、フード姿の一人に向かって大声を上げていた。
「それがどうしたって言うんだ おまえたちが俺おれの店の通りに吸きゅう魂こん鬼きを送り込んだから、俺は守しゅ護ご霊れいをけしかけたんだ あいつらにこの周りをうろつかれるのはごめんだ、そう言ったはずだぞ。あいつらはお断りだ」
「あれは貴様きさまの守護霊じゃなかった」死し喰くい人びとの一人が言った。「牡鹿おじかだった。あれはポッターのだ」
「牡鹿」バーテンは怒ど鳴なり返して杖つえを取り出した。「牡鹿 このバカ――エクスペクト パトローナム 守護霊よ、来たれ」
杖から何か大きくて角つののあるものが飛び出し、頭を低くしてハイストリート大通りに突っ込んで、姿が見えなくなった。
「俺が見たのはあれじゃない――」
そう言いながらも、死喰い人は少し自信をなくした口調だった。
「夜間外出禁止令が破られた。あの音を聞いたろう」仲間の死喰い人がバーテンに言った。「誰かが規則を破って通りに出たんだ――」
「猫を外に出したいときには、俺は出す。外出禁止なんてクソ食らえだ」
「『夜よ鳴なき呪じゅ文もん』を鳴らしたのは、貴様きさまか」
「鳴らしたがどうした 無理やりアズカバンに引っ張っていくか 自分の店の前に顔を突き出した咎とがで、俺を殺すのか やりたきゃやれ だがな、おまえたちのために言うが、けちな闇やみの印を押して『あの人』を呼んだりしてないだろうな。呼ばれて来てみれば、俺と年寄り猫一匹じゃ、お気に召めさんだろうよ。さあ、どうだ」