「僕たちは逃げません」ハリーが言った。「ホグワーツに行かなければならないんです」
「ばかを言うんじゃない」アバーフォースが言った。
「そうしなければならないんです」
「君がしなければならんのは」アバーフォースは身を乗り出して言った。「ここから、できるだけ遠ざかることだ」
「あなたにはわからないことです。あまり時間がない。僕たちは、城に入らないといけないんだ。ダンブルドアが――あの、あなたのお兄さんが――僕たちにそうしてほしいと――」
暖炉の火が、アバーフォースのメガネの汚れたレンズを一いっ瞬しゅん曇くもらせ、明るい白一色にした。ハリーは巨きょ大だい蜘ぐ蛛ものアラゴグの盲めしいた目を思い出した。
「兄のアルバスは、いろんなことを望んだ」アバーフォースが言った。「そして、兄が偉大な計画を実行しているときには、決まってほかの人間が傷きずついたものだ。ポッター、学校から離れるんだ。できれば国外に行け。俺おれの兄の、賢かしこい計画なんぞ忘れっちまえ。兄はどうせ、こっちのことでは傷きずつかないところに行ってしまったし、君は兄に対して何の借りもない」
「あなたには、わからないことです」ハリーはもう一度言った。
「わからない」アバーフォースは静かに言った。「俺が、自分の兄のことを理解していないと思うのかね 俺よりも君のほうが、アルバスのことをよく知っているとでも」
「そういう意味ではありません」ハリーが言った。疲労と食べすぎ飲みすぎで、頭が働かなくなっていた。「つまり……ダンブルドアは僕に仕事を遺のこしました」
「へえ、そうかね」アバーフォースが言った。「いい仕事だといいが 楽しい仕事か 簡単か 半人前の魔法使いの小僧こぞうが、あまり無理せずにできるような仕事だろうな」
ロンはかなり不ふ愉ゆ快かいそうに笑い、ハーマイオニーは緊張きんちょうした面持おももちだった。
「僕は――いいえ、簡単な仕事ではありません」ハリーが言った。「でも、僕にはそれを仕上げる義務が――」
「『義務』 どうして『義務』なんだ 兄は死んでいる。そうだろうが」アバーフォースが荒々しく言った。「忘れるんだ。いいか、兄と同じところに行っちまう前に 自分を救うんだ」