「できません」
「なぜだ」
「僕――」ハリーは胸が一杯になった。説明できない。代わりにハリーは反はん撃げきした。「でも、あなたも戦っている。あなたも『騎き士し団だん』のメンバーだ――」
「だった」アバーフォースが言った。「『不ふ死し鳥ちょうの騎士団』はもうおしまいだ。『例のあの人』の勝ちだ。もう終わった。そうじゃないとぬかすやつは、自分を騙だましている。ポッター、ここは君にとって決して安全ではない。『あの人』は、執しつ拗ように君を求めている。国外に逃げろ。隠れろ。自分を大切にするんだ。この二人も一いっ緒しょに連れていくほうがいい」
アバーフォースは親指をぐいと突き出して、ロンとハーマイオニーを指した。
「この二人が君と一緒に行動していることは、もう誰もが知っている。だから、生きているかぎり二人とも危険だ」
「僕は行けない」ハリーが言った。「僕には仕事がある――」
「誰かほかの人間に任まかせろ」
「できません。僕でなければならない。ダンブルドアがすべて説明してくれた――」
「ほう、そうかね それで、何もかも話してくれたかね 君に対して正直だったかね」
ハリーは心底「そうだ」と言いたかった。しかし、なぜかその簡単な言葉が口を突いて出てこなかった。アバーフォースは、ハリーが何を考えているかを知っているようだった。
「ポッター、俺は兄を知っている。秘密主義を母親の膝ひざで覚えたのだ。秘密と嘘うそをな。俺たちはそうやって育った。そしてアルバスには……天性のものがあった」
老人の視線が、マントルピースの上に掛かかっている少女の絵に移った。ハリーがあらためてよく見回してみると、部屋にはその絵しかない。アルバス・ダンブルドアの写真もなければ、ほかの誰の写真もない。
「ダンブルドアさん」ハーマイオニーが遠えん慮りょがちに聞いた。「あれは妹さんですか アリアナ」
「そうだ」アバーフォースは素っ気なく答えた。「娘さん、リータ・スキーターを読んでるのか」
暖炉だんろのバラ色の明かりの中でもはっきり見分けられるほど、ハーマイオニーは真っ赤になった。
「エルファイアス・ドージが、妹さんのことを話してくれました」
ハリーはハーマイオニーに助け舟を出した。
「あのしょうもないバカが……」
アバーフォースはブツブツ言いながら、蜂はち蜜みつ酒しゅをまたぐいとあおった。
「俺おれの兄の、毛穴という毛穴から太陽が輝くと思っていたやつだ。まったく。まあ、そう思っていた連中はたくさんいる。どうやら、君たちもその類たぐいのようだが」