「妹はめちゃめちゃになった。やつらのせいで。二度と元には戻らなかった。魔法を使おうとはしなかったが、魔法力を消し去ることはできなかった。魔法力が内にこもり、妹を狂わせた。自分で抑えられなくなると、その力が内側から爆発した。妹はときどきおかしくなり、危険になった。しかし、いつもは優しく、怯おびえていて、誰にも危害きがいを加えることはなかった」
「そして父は、そんなことをしたろくでなしを追い――」アバーフォースが話を続けた。「そいつらを攻こう撃げきした。父はそのためにアズカバンに閉じ込められてしまった。攻撃した理由を、父は決して口にしなかった。魔法省がアリアナの状態を知ったら、妹は、聖せいマンゴに一生閉じ込められることになっただろう。アリアナのように精神せいしん不安定で、抑えきれなくなるたびに魔法を爆発させるような状態は、魔法省から『国こく際さい機き密みつ保ほ持じ法ほう』を著いちじるしく脅おびやかす存在とみなされただろう」
「家族は、妹をそっと安全に守ってやらなければならなかった。俺おれたちは引っ越し、アリアナは病気だと言いふらした。母は妹の面倒を見て、安静に幸せに過ごさせようとした」
「妹のお気に入りは、俺だった」そう言ったとき、アバーフォースのもつれたひげに隠れたしわだらけの顔から、泥どろんこの悪童が顔を覗のぞかせた。
「アルバスじゃない。あいつは家に帰ると自分の部屋にこもりきりで、本を読んだりもらった賞しょうを数えたり、『当世の最も著ちょ名めいな魔法使いたち』と手紙のやり取りをするばかりだった」アバーフォースはせせら笑った。「あいつは、妹のことなんか関わり合いになりたくなかったんだ。妹は俺のことがいちばん好きだった。母が食べさせようとしてもいやがる妹に、俺なら食べさせることができた。アリアナが発作ほっさを起こして激怒げきどしているときに、俺ならなだめることができた。状態が落ち着いているときは、俺が山や羊ぎに餌えさをやるのを手伝ってくれた」
「妹が十四歳のとき……いや、俺はその場にいなかった」アバーフォースが言った。「俺がいたならば、なだめることができたのに。妹がいつもの怒りの発作を起こしたが、母はもう昔のように若くはなかった。それで……事故だったんだ。アリアナには抑えることができなかった。そして、母は死んだ」