ハリーは哀あわれみと嫌けん悪お感かんの入り交じった、やりきれない気持になった。それ以上聞きたくなかった。しかしアバーフォースは話し続けた。アバーフォースが最後にこの話をしたのはいつのことだろう、いや、一度でも話したことがあるのだろうか、とハリーは訝いぶかった。
「そこで、アルバスの、あのドジなドージとの世界一周旅行は立ち消えになった。母の葬儀そうぎのために、二人は家にやって来た。そのあとドージだけが出発し、アルバスは家長かちょうとして落ち着いたってわけだ。フン」
アバーフォースは、暖炉だんろの火に唾つばを吐はいた。
「俺おれなら、妹の面倒を見てやれたんだ。俺は、あいつにそう言った。学校なんてどうでもいい。家にいて、面倒を見るってな。兄は、俺が最後まで教育を受けるべきだ、自分が母親から引き継ぐ、とのたもうた。『秀才殿』も落ちぶれたものよ。心を病んだ妹の面倒を見たところで、一日おきに妹が家を吹っ飛ばすのを阻そ止ししたところで、何の賞しょうももらえるものか。しかし兄は、数週間は何とかかんとかやっていた……やつが来るまでは」
アバーフォースの顔に、こんどこそ間違いなく危険な表情が浮かんだ。
「グリンデルバルドだ。そして兄はやっと、自分と同等な話し相手に出会った。自分同様優秀で、才能豊かな相手だ。すると、アリアナの面倒を見ることなんぞ二の次になった。二人は新しい魔法界の秩ちつ序じょの計画を練ったり、『秘宝ひほう』を探したり、ほかにも興味の趣おもむくままのことをした。すべての魔法族の利益のための壮大な計画だ。一人の少女がないがしろにされようが、アルバスが『より大きな善ぜんのため』に働いているなら、何の問題があろう」
「しかし、それが数週間続いたとき、俺はもうたくさんだと思った。ああ、そうだとも。俺のホグワーツに戻る日が間近に迫せまっていた。だから、俺は二人に言った。二人に面と向かって言ってやった。ちょうどいま俺が君に話しているように」
そしてアバーフォースはハリーを見下ろした。兄と対決する屈強くっきょうな怒れる十代のアバーフォースを、容易よういに想像できる姿だった。
「俺は兄に言った。すぐにやめろ。妹を動かすことはできない。動かせる状態じゃない。どこに行こうと計画しているかは知らないが、おまえに従う仲間を集めるための小賢こざかしい演えん説ぜつに、妹を連れていくことはできないと、そう言ってやった。兄は気を悪くした」
メガネがまた暖炉の火を反はん射しゃして白く光り、アバーフォースの目が一いっ瞬しゅん遮さえぎられた。
「グリンデルバルドは、気を悪くするどころではなかった。やつは怒った。ばかな小こわ童っぱだ、自分と優秀な兄との行く手を邪魔じゃましようとしている。やつはそう言った……自分たちが世界を変えてしまえば、そして隠れている魔法使いを表おもて舞ぶ台たいに出し、マグルに身の程を知らせてやれば、俺の哀あわれな妹を隠しておく必要もなくなる。それがわからないのか、とそう言った」