ハリーとルーナは階段を急いだ。松たい明まつに照らされた長い階段で、あちこち思いがけないところに曲り角があった。最後に二人は、どうやら固い壁かべらしいものの前に出た。
「ここに入って」
そう言いながら、ハリーは「透とう明めいマント」を取り出してルーナと自分に被かぶせた。ハリーは壁を軽く押した。
壁はハリーが触さわると熔とけるように消え、二人は外に出た。振り返ると、壁がたちまちひとりでにふさがるのが見えた。そこは暗い廊下だった。ハリーはルーナを引っ張って物陰に移動し、首から掛かけた巾着きんちゃくを探って「忍しのびの地ち図ず」を取り出した。顔を地図にくっつけるようにして自分とルーナの点を探し、やっとそれを見つけた。
「ここは六階だ」
ハリーは、行く手の廊下から、フィルチの点が遠ざかっていくのを見つめながら囁ささやいた。
「さあ、こっちだ」
二人はこっそりと進んだ。
ハリーは、何度も夜に城の中をうろついたことがあったが、心臓がこんなに早はや鐘がねを打ったことはなかったし、無事に移動することに、これほどさまざまな期待がかかっていたこともなかった。月光が四角に射さし込む廊下ろうかを通り、密ひそかな足音を聞き咎とがめて兜かぶとをキーキー鳴らす鎧よろいのそばを通り過ぎ、得体の知れない何かが潜ひそんでいるかもしれない角を曲がり、「忍しのびの地ち図ず」が読めるだけの明かりがあるところでは地図を確かめながら、ハリーとルーナは歩いた。ゴーストをやり過ごすために、二度立ち止まった。いつ何どき障害しょうがいに出くわしてもおかしくはなかった。ハリーは、ポルターガイストのピーブズを何より警けい戒かいし、近づいてくるときの、それとわかる最初の物音を聞き逃すまいと、ひと足ごとに耳を澄すませた。
「こっちよ、ハリー」
ルーナがハリーの袖そでを引き、螺ら旋せん階かい段だんのほうに引っ張りながら、声をひそめて言った。
二人は、目の回るような急な螺旋を上った。ハリーは、ここには来たことがなかった。やっとのことで扉とびらの前に出た。取っ手も鍵かぎ穴あなもない。古めかしい木の扉がのっぺりと立っているだけで、鷲わしの形をしたブロンズのドアノッカーがついている。