ルーナが色白の手を差し出した。腕も胴体もない手が宙に浮いているようで、薄うす気き味みが悪かった。ルーナが一回ノックした。静けさの中で、その音はハリーには大砲が鳴り響ひびいたように聞こえた。たちまち鷲の嘴くちばしが開き、鳥の鳴き声ではなく、柔やわらかな、歌うような声が流れた。
「不ふ死し鳥ちょうと炎はどちらが先」
「ンンン……どう思う、ハリー」
ルーナが思慮しりょ深げな表情で聞いた。
「えっ 合言葉だけじゃだめなの」
「あら、違うよ。質問に答えないといけないんだもン」ルーナが言った。
「間違ったらどうなるの」
「えーと、誰か正しい答えを出す人が来るまで、待たないといけないんだもン」
ルーナが言った。
「そうやって学ぶものよ。でしょ」
「ああ……問題は、ほかの誰かが来るまで待つ余裕よゆうはないんだよ、ルーナ」
「うん。わかるよ」ルーナがまじめに言った。
「えーと、それじゃ、あたしの考えだと、答えは、円には始まりがない」
「よく推理すいりしましたね」
声がそう言うと、扉がパッと開いた。
レイブンクローの談話室には人気ひとけがなく、広い円形の部屋で、ハリーが見たホグワーツのどの部屋より爽さわやかだった。壁かべのところどころに優雅ゆうがなアーチ形の窓があり、壁にはブルーとブロンズ色のシルクのカーテンが掛かかっている。日中なら、レイブンクロー生は、周りの山々のすばらしい景色が眺ながめられるだろう。天井はドーム型で、星が描いてあり、濃のう紺こんの絨毯じゅうたんも同じ模様もようだ。テーブル、椅い子す、本ほん棚だながいくつかあり、扉の反対側の壁の窪くぼみに、背の高い白い大理だいり石せきの像が建っていた。
ルーナの家で胸像を見ていたハリーは、ロウェナ・レイブンクローの顔だとすぐにわかった。その像は、寝室に続いていると思われるドアの脇わきに置かれていた。ハリーは逸はやる心で、まっすぐに大だい理り石せきの女性に近づいた。像は物問ものといたげな軽い微笑びしょうを浮かべて、ハリーを見返していた。美しいが、少し威い嚇かく的てきでもあった。頭部には、大理石で繊せん細さいな髪かみ飾かざりの環わが再現されている。フラーが結婚式で着けたティアラと、そう違わないものだ。小さな文字が刻きざまれている。ハリーは「透とう明めいマント」から出て、レイブンクロー像の台座に乗り、文字を読んだ。
「計はかり知れぬ英知えいちこそ、われらが最大の宝なり」
「つまり、おまえは文無しだね、能無しめ」
ケタケタという甲かん高だかい魔女の声がした。ハリーは素早く振り向き、台座から滑すべり降おりて床に立った。目の前に猫背のアレクト・カローの姿があった。ハリーが杖つえを上げる間もなく、アレクトはずんぐりした人差し指を、前腕の髑髏どくろと蛇へびの焼印に押しつけた。