指が闇やみの印に触ふれたとたん、ハリーの額ひたいの傷痕きずあとが堪こらえようもなく痛んだ。星をちりばめた部屋が視界しかいから消え、ハリーは崖がけの下に突き出した岩に立っていた。波が周囲を洗い、心は勝利感に躍おどった――小僧こぞうを捕とらえた。
バーンという大きな音で、ハリーは我に返った。一瞬いっしゅん、自分がどこにいるのかもわからずハリーは杖つえを上げたが、目の前の魔女は、すでに前のめりに倒れていた。倒れた衝撃しょうげきの大きさに、本棚ほんだなのガラスがチリチリと音を立てた。
「あたし、の練習以外で誰かを『失神しっしん』させたの、初めてだもン」
ルーナはちょっとおもしろそうに言った。
「思っていたより、やかましかったな」
たしかにそうだった。天井がガタガタ言い出した。寝室に続くドアの向こう側から、あわてて駆かけてくる足音が、だんだん大きく響ひびいてきた。ルーナの呪文じゅもんが、上で寝ていたレイブンクロー生を起こしてしまったのだ。
「ルーナ、どこだ 僕、『マント』に隠れないと」
ルーナの両足がふっと現れた。ハリーが急いでそばに寄り、ルーナが二人に「マント」を掛かけ直したとき、ドアが開いて寝巻き姿のレイブンクロー生がどっと談話室にあふれ出た。アレクトが気を失って倒れているのを見て、生徒たちは、息を呑のんだり驚いて叫さけんだりした。そろそろと、寮りょう生せいがアレクトを取り囲みながら近づいた。野蛮やばんな獣けだものは、いまにも目覚めて寮生を襲おそうかもしれない。そのとき、勇敢ゆうかんな小さい一年生がアレクトにぱっと近寄り、足の親指で尻しりを小こ突づいた。
「死んでるかもしれないよ」一年生が喜んで叫んだ。
「ねぇ、見て」
レイブンクロー生がアレクトの周りに人垣ひとがきを作るのを見て、ルーナがうれしそうに囁ささやいた。
「みんな喜んでるもン」
「うん……よかった……」
ハリーは目を閉じた。傷痕が疼うずく。ハリーはヴォルデモートの心の中に沈んでいくことにした……トンネルを通り、最初の洞穴ほらあなに着いた……こっちに来る前にロケットの安否を確かめることにしたのだ……しかし、それほど長くはかからないだろう……。
談話室の扉とびらを激はげしく叩たたく音がして、レイブンクロー生はみんな凍こおりついた。扉の向こうで鷲わしのドアノッカーから、柔やわらかな歌うような声が流れるのが聞こえた。
「消失した物質はどこに行く」
「そんなこと俺おれが知るか 黙だまれ」
アレクトの兄、アミカスのものだとすぐわかる、下品なうなり声だった。
「アレクト アレクト そこにいるのか あいつを捕まえたのか 扉を開けろ」