ハリーの頭のどこか遠いところで――焼けるように激はげしく痛む傷痕きずあとにつながっているその部分で、ハリーは、不気味な緑の小舟に乗って暗い湖を急ぐヴォルデモートの姿を見ていた……あの石の水すい盆ぼんが置いてある小島に、間もなく到着する……。
「逃げないといけません」マクゴナガル教授きょうじゅが、囁ささやくように言った。
「さあ、ポッター、できるだけ急いで」
「それはできません」ハリーが言った。
「僕にはやらなければならないことがあります。先生、レイブンクローの髪飾かみかざりがどこにあるか、ご存知ぞんじですか」
「レ――レイブンクローの髪飾り もちろん知りません――何百年もの間、失われたままではありませんか」
マクゴナガル教授は、少し背筋を伸ばして座り直した。
「ポッター、この城に入るなど、狂気の沙さ汰たです、まったく狂気としか――」
「そうしなければならなかったんです」ハリーが言った。「先生、この城に隠されている何かを、僕は探さないといけないんです。それは髪飾りかもしれない――フリットウィック先生にお話することさえできれば――」
何かが動く物音、ガラスの破片はへんのぶつかる音がした。アミカスが息を吹き返したのだ。ハリーやルーナが行動するより早く、マクゴナガル先生が立ち上がって、ふらふらしている死し喰くい人びとに杖つえを向けて唱となえた。
「インペリオ 服従ふくじゅうせよ」
アミカスは立ち上がって妹のところへ歩き、杖を拾って、ぎごちない足取りで従順にマクゴナガル教授に近づくや、妹の杖と一緒いっしょに自分の杖も差し出した。それが終わると、アレクトの隣となりに横たわった。マクゴナガル教授が再び杖を振ふると、銀色のロープがどこからともなく光りながら現れ、カロー兄妹きょうだいにくねくねと巻きついて二人一緒にきつく縛しばり上げた。
「ポッター」
マクゴナガル教授は、囚とらわれの身となったカロー兄妹のことなど、物の見事に無視して、再びハリーのほうを向いた。
「もしも『名前を言ってはいけないあの人』が、あなたがここにいると知っているなら――」
その言葉が終わらないうちに、痛みにも似た激しい怒りがハリーの体を貫き、傷痕を燃え上がらせた。その瞬間しゅんかん、ハリーは石の水盆を覗のぞき込んでいた。薬が透明とうめいになり、その底に安全に置かれているはずの金のロケットがない――。